今年の9月7日には、MSP初の地方公演として能登演劇堂で『何櫻彼櫻銭世中』(さくらどきぜにのよのなか)を上演する予定であったのが、新年早々の能登地震でそれがかなわなくなってしまった。
それに代って今年もラボ公演を行うことになり、例年、ラボ公演は本公演に因んだ内容の演目が上演されてきており、昨年は本公演が『ハムレット』で、ラボ公演には太宰治の『新ハムレット』を選んで上演している。
今年の本公演は『お気に召すまま』だが、それに類する作品が見つからないということで、急遽、猪上混なる人物(それが誰であるかはすぐ推察できるのであるが、ここでは変名を尊重してそのまま記す)が2週間で書き上げた(?!『ウィンザーの陽気な女房たち』を2週間で書き上げたエピソードを思い出させる)という『お気に召すまま』をプロレスの世界に重ねた突拍子もないネタを採用することになったという。
劇のあらすじは、何者かに父を殺された林戸露沙(はやしどろさ)が、その男を刺殺して逃げる途中に出会ったジェイクに「北陸あーでんプロレス」のレスラーとしてスカウトされる。
露沙は父親の仕事の関係で北陸にいたことがあり、そのときこの「北陸あーでんプロレス」と出会っており、そこのスター選手であったオーランド土橋に憧れていて、露沙がその地を去ることになった最後の日に初めてオーランドに別れの挨拶のつもりで声をかけ、記念のしるしに自分のネックレスを渡す。オーランドも実は毎回見に来てくれている露沙に気付いていて憎からず思っていたのであった。
その「北陸あーでんプロレス」で露沙は男として覆面レスラーギャニミードと名乗ってオーランドとタッグを組むことになり、人気を博すことになる。
ところがオーランドはギャニミードに露沙の面影を感じて、彼女への思いが募ってプロレスにも精彩を欠くようになる。それを心配して露沙の本当の姿を知っているジェイクがオーランドに露沙への思いをあきらめさせるような芝居を打たせる。
とまあ、こんな具合に原作の内容をそっくりギャグに仕立てあげているので、本作を知っている者には次の展開をどのように持って行くのだろうかという期待感を抱かせる面白さがある。
本筋と合わせて、原作の道化タッチストーンとオーランドとの結婚や、羊飼いのシルヴィアスと羊飼いの娘フィービーとの結婚も、名前やシチュエーションを変え、エピソードとして組み込んでいる。
大円団は、露沙が自首し、正当防衛ということで執行猶予となり、その期限も終えるが行き先の当てもなく、再び「北陸あーでんプロレス」に戻って来て、今度は女プロレスラーとして、名前も本名の林戸露沙の林戸をリンドと露沙をひっくり返して読んだロザリンドの名前で、オーランドとタッグを組んで復活するという所で幕となる。
総括すれば、原作を馬鹿々々しくギャグった脚本の面白さと楽しさ、その面白さと楽しさを演じる学生たちの表現力というより、体現力の若々しい瑞々しさ、新鮮さを楽しむことができた。
本筋の出演者は6人であるが、タッチストーンとコリンが登場する場面では、そのタッチストーンを演出の内山就人が演じていたのが注目された。タッチストーンはこの劇では、前社長に変わった新社長を揶揄した歌を歌ったことで北陸の支店に左遷され、そこでたった一人の部下であるコリンにオードリーとの結婚を打ち明けるという設定での登場である。
出演者6人は1,2年生であるが、内山君だけが4年生ということもあってか、落ち着いて感じられた(彼はキャストとしては名を連ねていなかった)。
上演時間は、70分。
劇中手拍子の入るところでは、観客席から自然に手拍子がなされ、出演者と観客の一体感を感じさせる舞台であった。
作/猪上混、総監修/井上優、演出/内山就人(経営4)
9月7日(土)13時開演、明治大学猿楽町第2校舎1Fアートスタジオ、全席自由
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