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横田栄司のオセロー × 浅野雅寛のイアーゴー
「嫉妬深い人は理由があるから嫉妬するのではなく、嫉妬深いから嫉妬するんですもの。嫉妬というものはみずからはらんでみずから生まれる化け物です」
エミリアはオセローが嫉妬深いから嫉妬するのだと言い放つが、オセローがイアーゴーに乗せられ手も無く嫉妬に狂うのは、オセローの自信過剰のなせる業であると、オセローを演じる横田栄司の演技を見ていて感じた。自信過剰な者ほどそれが弱点となって一旦思い込むとその罠から抜け出せなくなり益々深みへとはまっていく。
この劇は、横田栄司のオセローが浅野雅寛のイアーゴーの巧みな誘導にいともたやすく乗せられて嫉妬に狂っていく劇であると言っても過言ではない程、舞台はこの二人を中心にして展開されていく。
そんな中で、この劇の演出で二つほど面白いと言うか印象に残る場面があった。
その一つは、オセローがデズデモーナに対して自分が彼女にやったハンカチのことを執拗に求める場面である。二人のそばに控えているエミリアが、オセローが叫ぶ(というか絶叫に近い)「ハンカチ!」と言う言葉のたびに、ビクッと飛び上がらんばかりに驚きひるみ、ついにはこらえきれず、奥に走って気付けの酒をあおる。エミリアはそのハンカチを拾って夫のイアーゴーの求めるままに渡してしまったといううしろめたさがそこにありありと見え、そのエミリアのおどおどした姿が面白くもおかしくも見えた。
今一つは最後の場面で、死んだデズデモーナがベッドから起き上がって立ちあがっており、それから最後の状況をずっと見守り続け、オセローが傍らの兵士から剣を奪って自死するとき。この場面は普通、オセローは隠し持っていた剣、あるいは短剣で自ら首を切り、ベッドに横たわっているデズデモーナにキスをしながら死ぬのだが、この演出では今まで立っていたデズデモーナが彼を抱擁して、二人は座って抱き合ったまま命果てる。一方、夫のイアーゴーに殺されたエミリアも、腰掛に座った状態で夫を冷たく見つめているのが印象的であった。
更に付け加えるなら、デズデモーナが歌う「柳の唄」が何となく違っていると思えたのも印象に残ったが、あとでパンフレットで確認すると、この部分は演出者の鵜山仁の翻訳によるものであった。
この劇の見どころは、黒ずんだ赤銅色の顔のメイクで臨んだ横田栄司のオセローの演技と台詞力に尽きると言っても過言ではないだろう。ヴェニスにとってかけがえのない傭兵としての将軍である彼が、自信たっぷりにデズデモーナの父親ブラバンショーの非難をかわす沈着さを備えた彼が、いともたやすくイアーゴーの口車に乗せられて嫉妬に狂っていき、感情の起伏の激しい、時にはだっだ子の児戯のような恰好でのたうち回る姿に観客席からも笑いが走る程であった。その落差が妙味でもあった。
横田栄司と浅野雅寛以外の出演者は、saraが清楚なデズデモーナを演じたほか、エミリアに増岡裕子、キャシオーに上川路啓志、ヴェニスの公爵に石川武、ブラバンショーに高橋ひろし、ロドヴィーコーに柳橋朋典、ロダリーゴーに石橋徹郎、モンターノーに若松泰弘、ビアンカに千田美智子など、総勢13名。
上演時間は、途中15分間の休憩を入れて、3時間。
訳/小田島雄志、劇中歌詞訳・演出/鵜山仁、美術/乗峯雅寛
7月1日(月)13時30分開演、紀伊國屋サザンシアター、チケット:6500円、
座席:10列22番
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