新地球座10周年記念として、これまでに新地球座の朗読劇に出演した出演者を迎えての多人数出演の公演から一転して、今回から原点に戻って少人数での上演ということで、シェイクスピア四大悲劇の一つである『オセロー』を一人一役で3人の登場人物という構成の朗読劇。
一人一役で3人の登場人物の『オセロー』は2020年11月にも上演しているが、そのときの登場人物は、オセロー(久野壱弘)、デズデモーナに(倉橋秀美)、イミーリア(高橋正彦)の3人であったが、今回は、オセローに高橋正彦、イアーゴーに久野壱弘、デズデモーナに倉橋秀美が演じた。
限られた、わずか3人の登場人物でこの劇のテーマをどのように表出するか、また選定された登場人物によってそれがどのように描き出されるかは、ひとえに演出と出演者の台詞力にかかっている。
今回の舞台の第一声は、イアーゴーの「ブラバンショーどの、あなたの心臓は破られましたぞ、あなたの魂の半分が亡くなったんですぞ」でいきなり始まり、その意表をついた大きな声で観客は、「なにごとか?!」と一気に劇中に引き込まれていった。
この場面は、深夜、もう人も寝静まったころの時刻。明かりの消えているヴェニスの貴族で元老院議員の一人、ブラバンショーの邸宅の窓に向って、イアーゴーが街路上から寝ている者を外から呼び起こすところである。
久野壱弘演じるイアーゴーの、この第一声による観客の驚きが舞台には登場しないブラバンショーの驚きとなる。
デズデモーナとの結婚のいきさつを語るオセロー、愛の絶頂からイアーゴーの姦計によって疑心暗鬼が募っていき嫉妬の妄想に駆られて呻吟するオセローの苦悩を演じる高橋正彦の台詞の変調、そしてそのオセローに純真な無邪気な愛を寄せるデズデモーナを演じる倉橋秀美の可憐な声が、愛らしく、いじらしく、なぜ、彼女はオセローに殺されなくてはならないのか、切なく心に迫ってくる朗読演技であった。
場面の転換時や台詞にのせて演奏される三間早苗のチェロ演奏が、オセローの嫉妬の狂気を際立たせ、デズデモーナに対して聴く者への切々たる気持ちをかきたて、もう一人の登場人物としての存在を感じさせる素晴らしい演奏であった。
終演後の観客の声として、3人登場人物だけで演じられて余分なものがないだけ、テーマ性もはっきりして分かりやすくてよかったという声を聞くことが出来たのは、何よりも3人の台詞力、声の演技力のお蔭であると素直にうれしかった。
この日はじめてこの朗読劇に来られた方を含め、超満員の観客で熱気にあふれた朗読劇であった。
翻訳/坪内逍遥、監修/荒井良雄、台本構成/髙木 登、演出/高橋正彦
チェロ演奏/三間早苗
5月22日(水)16時30分開演、阿佐ヶ谷・名曲喫茶ヴィオロンにて
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