シェイクスピア・シアター公演 『ペリクリーズ』          No. 2024-017

早稲田大学文学部英文学コース・文学研究科英文コース主催

 自分ではSNSの類は一切しないので人づてで知ったことであるが、新生シェイクスピア・シアターのメンバーが大量に脱退し残ったのは3名だと聞いていたので、上演が無事になされるのかが一番の心配であったが、まったくの杞憂であった。
 人柄(体型を含めて)が役柄を決めることが多いが、逆に役が人を作ることも事実である。
 今回の退団騒動で、残されたメンバーで主演となるペリクリーズを演じるメンバーがいないのではないのかと心配していたのだが、それを三田和慶がその懸念を見事に吹き飛ばしてくれた。
 出口典雄のシェイクスピア・シアター時代からの彼の役柄のイメージは、『夏の夜の夢』のボトムで、それは彼の人格的人柄と合わせて体型からくるものであったが、今回はその体形がスケールの大きなペリクリーズを演じるというプラスに働いていたように思う。演技面でも、マリーナとの再会の場面では、観客席からすすり泣きが聞こえてくるほどで、かくいう自分も目頭が思わず熱くなってうるうるしてしまった。
 シェイクスピア・シアターのメンバー以外は知らない出演者ばかりであったが、台詞回しは出口典雄の継承そのもので、懐かしさを感じさせるほどであった。
 始めに書こうと思っていたことであるが、一番の印象は、舞台の進行役を勤める詩人のガワーを演じる高山健太の台詞力と演技であった。劇中世界へと誘う清明晴朗な彼の語り口にうっとりと引き込まれていった。
 開演前の舞台中央の真ん前には、黒いソフト帽が置かれてあった。
 第1幕の冒頭場面で、ガワーがプロ―ローグとしての台詞の後半部を語り終えたところで、そのソフト帽を取り上げ、胸元のところでかかげるようにして持ち、それがアンタイオカスの王女との結婚を望んで命を失った者たちの骸骨であると語った後、詩人ガワーはその帽子をかぶり、そのままアンタイオカスを演じる。その帽子は、死者の骸骨の表象であった。
 その後もガワー演じる高山健太は、タルソの場ではダイオナイザの召使で殺し屋のリーオナインの役を演じ、ペンタポリスの場では王サイモニディーズを、メイティリーニの地では女郎屋の召使ボルトを演じ、文字通り、八面六臂の活躍をする。特にボルト役は高山健太の持ち味を十二分に発揮する役といってもよく、自分としても彼がその役を演じるのを楽しみにしていたぐらいで、期待通り楽しませてくれた。
 今一人、新生シェイクスピア・シアターに残ったメンバーの西山公介は、ツロの貴族ヘリケイナスやメイティリーニの女郎屋の亭主など、うまく演じ分けた。
 今回の出演者は男性5名に対して女性が9名という構成で、名前のある主だった役では、アンティオカスの貴族でペリクリーズの暗殺を命じられるサリアードやメイティリーニの太守ライシマカスに角谷良、タルソの太守クリーオンに渡辺剛志、サイモニディーズの娘セーザにミルノ純、マリーナに多田菜摘、クリーオンの妻ダイオナイザにハービーみき杏、マリーナの乳母リコリダに加藤真伎、女郎屋のおかみに八重幡典子が熱演し、アンタイオカスの王女とエペソスの貴族セリモンに巻尾美優、そして井上華純、青木茉依、勝木奈生らが漁師や貴族たちを演じた。
 上演時間は、途中10分間の休憩を挟んで、2時間45分。
 出演者の中で見覚えのある顔があって、終演後にどちらからともなく声をかけ合ったのが、リコリダやその他を演じた加藤真伎。彼女の方が僕のことをよく覚えていて、上智大の英語劇や文学座の卒業公演などに出演していたと話してくれた。こういう出会いも観劇の楽しさ、嬉しさの一つであるが、反面、自分が見ているだけではなく、自分の観劇の姿を見られていることを自戒する。

 

訳/小田島雄志、原案/出口典雄、演出/高山健太
5月12日(日)13時開演、早稲田大学小劇場・どらま館、料金:4000円、全席自由


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