シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会(SAYNK)日英語朗読劇
   第16回 『リチャード三世』(第一部)
              No. 2024-010

 新型コロナウィルスの感染流行以来、初めて従来通りのスタイルでの公演。
 はじめに共催者代表の山手読書会代表の奥浜那月氏の挨拶があり、日本で初めてシェイクスピア劇が演じられたという横浜で、是非シェイクスピア劇を上演したいという深い思い入れから、瀬沼達也氏による「シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会」のシェイクスピア劇が始められたいきさつを語られ、その深い思い入れの気持が伝わって来る挨拶であった。
 続いて、コロナの間は自粛して省かれていた瀬沼氏によるレクチャーがあり、最初に「フライヤー」の紹介と説明がなされた。中心に描かれたリチャード三世を演じる瀬沼氏のアップの顔は、実は横浜シェイクスピアグループ(YSG)で演じた時のリア王であることや、両サイドの白馬と犬の絵は劇中に登場することを説明され、背景の黒は心の闇を象徴し、リチャードの悪と太宰治の『走れメロス』に登場する王の悪が重なることや、『リチャード三世』の上演を二部に分けるにあたって、アンとエリザベス王妃の二人の女性とリチャードとの激しいやりとりの場を見せ場に構成したことなどが語られた。
 更に興味深いことに、この公演が開催される3月16日は、アン・ネヴィルの命日でもあるという偶然の一致についてフライヤーの挨拶文の中に記されていた。
 10分間の休憩の後、いよいよ本番の始まり。
 『リチャード三世』といえば、冒頭からいきなり登場するリチャードの悪党宣言の独白の台詞が魅力で、原文の英語での台詞が聴きどころであるので瀬沼氏の英語の台詞を大いに期待していたが、これまでの瀬沼氏のスタイルとは変わって日本語を多く交えての演技であった。
しかし、表情、所作、台詞回しとも魅するところ大で、大いに魅了させてくれた。特に、背中に瘤を背負ったせむしの姿で、足はびっこを引いて歩く所作などは、リチャードそのものになりきっての演技であった。
 リチャード三世の演技としての人物的な魅力は、悪人としての側面に道化的要素を含み持っているところにあると思っているが、今回の瀬沼氏の演技の中にも台詞回しにおいて、内面からくる表情に道化的なものを感じさせるところがあって、人物造形としても非常に興味深く観る(聴く)ことができ、ハムレットの言う'smiling villain'を思わせた。
 今回の舞台での一番の迫力の場はレクチャーで触れられたように、1幕2場のアンとリチャード、4幕4場の王妃エリザベスとリチャードとのやりとりの場にあった。その二人の女性を、プロの俳優である高村絵里がアンを、王妃エリザベスを劇団AUNの林佳世子が演じた。
 『リチャード三世』を2回に分けるとすれば、この長い劇の途中休憩は、通常、3幕7場のリチャードがバッキンガム公の画策で市民に押されて王位に就く決心をしたところであるが、それをあえて、劇の終盤に近い4幕4場の、リチャードが王妃エリザベスに、その娘のエリザベスとの結婚を強要する場面まで引き延ばしたのは、ひとえにリチャードのアンへの求婚の場と対比強調させるためであった。
そのため、次回の第二部の場面がほとんどなくなってくることになるが、第一部でいったんこの劇を終らせるために、この劇の最後の部分をエピローグのナレーションを入れ、次回へと続かせる工夫をしている。
さらに、最後に、リチャードが「馬だ!馬をよこせ!代わりに俺の王国をくれてやる」の台詞を、日本語と英語で締めくくって幕となる。
 登場人物としてのハイライトは、主演のリチャード(瀬沼達也)と、アン(高村絵里)、王妃エリザベス(林佳世子)であるが、この劇ではもう一人、際立った役としてマーガレットがいる。そのマーガレットを、山姥のようなおどろおどろしい白髪の鬘をつけて関谷啓子が演じたのも、見どころの一つであった。
 それらの脇を固める登場人物に、エドワード四世を演じる友情出演の清水英之、リチャードにとって欠かせない重厚な役割のバッキンガム公に増留俊樹、ヨーク公爵夫人その他にYSG代表の飯田綾乃、ダービー伯スタンリー卿やロンドン市長などを東春子、クラレンス公ジョージなどを演じた能見学は山手読者会のメンバーで、今回ただ一人の初出演。それぞれの出演者が個性を感じさせる台詞回しで、それを聞くだけでも楽しませてもらえた。
 今回は、コロナ明け初めての本格舞台とあって、音響、衣装、小道具などすべてにわたって力を入れているのが感じられ、見るべきもの、聞くべきものがあった。音響では全般的に効果音が場面によくフィットしていたと思うが、冒頭部でリチャードが犬に吠えられる台詞があるが、その箇所で犬の吠え声を入れ、リチャードがその犬を蹴飛ばす仕草をすることなどが注目された。衣装面では、女性陣がその役になり切っての衣装に凝った工夫をしていたのも見どころに味を添えていた。
 形式は朗読劇となっているが、一つ一つの場面を切り取って見れば、朗読劇を超えた本格的な舞台と変らない所作・演技と台詞回しであった。
 上演時間は、熱演で予定の時間を15分上回って、1時間45分。
 熱のこもった舞台を大いに楽しませていただいた。

 

演出・主演/瀬沼達也(SAYNK代表)
シェイクスピアを愛するゆかいな仲間たちの会主催/横浜山手読書会共催
3月16日(土)13時45分開演、横浜・人形の家「あかいくつ劇場」にて、入場無料(要予約)


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