昨年12月初めにチケットをオンラインで予約してクレジットカードで支払いをした後、コンビニや当日窓口引き取りなどのいつものチケット引き取り方法と異なっていたので不安を抱えていた。
この公演は知人の紹介で知ったのだが、彼からスマホに送られてきた画面が小さくて、劇団名がよく見えず、ずっとSleeping Theatreだと思いこんでいた。劇場に着いてチラシを手にして劇団名がまったく違っているのに気が付いた。実物のチラシにはSheepdog Theatreとなっていた。
そしていよいよ開場となった時、先に並んでいた人たちはみなスマホをかざしてQRコードの読み取りで入場していた。自分はスマホでの予約が出来ないのでパソコンで予約していて、チケットの入手方法が分からず不安なままであったので、とりあえず予約ナンバーの記号を手帳に控えていた。受付でその記号をスマホで読み取ってもらって結果的には事なきを得て一安心した。
英語による上演ということもあって、ほとんど満席の客席の半数以上が日本人以外の観客であったようだ。
劇団やキャステイングについて全く知らない状態であったので、入場時に渡されたパンフレットで確認すると、ハムレット役の小川深彩(ミサ)は日本大学芸術学部の学生で、Sophia Shakespeare Company(SSC)でマクベス夫人やロミオを演じたことがあるとの経歴が示されていた。帰宅後、観劇日記で確認すると、昨年、彼女のロミオを観劇した記録が残っていた。
出演者リストを見ると日本人のキャストは彼女だけで、その他はスコットランドやロンドン、フィリッピン、アメリカのサンディエゴ、両親がブラジル人でロンドンで育った人など、さまざまな出身地であるが、東京に在住している人がほとんどであった。
開幕は、クローディアスとガートルードの謁見の場から始まった。二人は舞台上手奥の台座に立って、クローディアスが兄である先王が亡くなって、その妻であるガートルードと結婚したいきさつを語る。舞台中央には黒いヴェールで顔全体を覆ったハムレットが直立の姿勢で立っている。
その場は結婚の報告だけで、クローディアスとガートルードはすぐに退場し、一人残ったハムレットがヴェールを取って'O that this too too sullied flesh would melt'の独白。
クローディアスが謁見の場でハムレットに語りかける台詞は、ハムレットがホレイショ―とマーセラスに会った後に再びその謁見の場が繰り返された時。謁見の場は、終始、クローディアスとガートルード、それにハムレットのみで、ポローニアスやレアティーズなどの登場はなく、場面場面が断片的な印象である。その断片的な印象はすべての場面に共通していた。
11名の出演者で主要な役を演じ、一人複数役をするのはボブ・ワーレィの「役者」役と、マーセラスを演じたカール・ブラッドレイのみで、劇中劇もワーレイが一人で王と王妃、それにルシアーナスの3役を演じるほかに墓堀人を演じ、マーセラスを演じたブラッドレイは、他に墓堀人とオズリックを演じ、その他の俳優たちは一人一役である。
オフィーリアの狂気の場面では、最初に彼女が登場してきたときは狂気の所作と表情の演技だけで台詞はなく、下手の二階のギャラリーでハムレットがオフィーリアの歌う歌を歌ったのが印象的であった。次にオフィーリアが登場してきたときその場にいるのはクローディアスとレアティーズのみで、ガートルードはその場にいない。オフィーリアを演じたのは、サンディエゴ出身のジャラニ・ブランケンシップで、日本ではごく最近、『怪談』の「雪女」を演じたことが紹介されていた。
ハムレットがイングランドに送られるはずであったところ、危うく難を逃れて帰国する時の手紙は、ホレイショ―によってガートルードに手渡され、彼女は彼の眼の間でその手紙を読み、王の姦計を知ることになる。原作とは異なる場面の創出であった。その事実を知った彼女は、ハムレットとレアティーズの剣の試合のとき、クローディアスとは離れたところに席を取ったのが注目された。このハムレットとレアティーズの剣の試合で、ハムレットを演じる小川深彩のフェンシングがうまいと感心したが、SSCの『ロミオとジュリエット』の観劇日記を読み返してみて、彼女がロミオを演じた時にも結構長い時間フェンシングで戦う場面があったことを記していてその演技に納得した。
乾杯用の酒盃は二つ用意され、クローディアスはハムレットに飲ませるための盃に真珠を入れる。この二つ盃を用意するところも自分には初めて観る演出で注目した。
ハムレットを演じた小川深彩の演技・所作、台詞回しは純粋な感じで、すがすがしく思われた。
演出のマイケル・ウォーカーは、『ハムレット』は「何層にも重なる心理的要素の解釈」が多く残るため、「爽快感と疲労感の間を行き来するような、創造的な機敏さが求められた」ことから、場面場面の登場人物を少人数に切り詰めて登場させることで、「常に揺れ動いているような感覚」を表出する演出を試みていることが感じられた。その反面、登場人物の台詞に個々のパワーはあっても有機的連結が感じられず、全体としての印象が無機質的で、エネルギーのパワーが自分には感じられなかったが、総合的には分かりやすい演出であった。
上演時間は、途中15分の休憩を入れて3時間。
演出/マイケル・ウォーカー
2月17日(土)13時開演、中野・シアターBON BON、チケット:4500円、全席自由
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