新地球座公演・荒井良雄沙翁劇場 第39回
      『ヘンリー六世・第三部』―フランスの牝狼と紙の王冠―   
  No. 2024-004

 『ヘンリー六世』三部作の完結編。この朗読劇台本では12人の登場人物に凝縮して、上演時間も1時間以内となるように内容も原作の3分の1以下に圧縮している。それでなくともシェイクスピアの英国史劇は登場人物も多く、その登場人物も爵位で呼ばれることが多いだけでなく、『ヘンリー六世』三部作では世代交代して同じ名前で異なる人物として登場してくるので余計に分かりにくく、混乱させられる。
 それだけに台本構成者としても、観客の皆さんにどこまで理解してもらえるか気になるところである。
 このダイジェスト版では12名の登場人物に絞っているが、最低3名でも上演できるように各場面を一部の例外を除いて原則3名の出演者にしている。しかしながら、今回の出演者は8名と過去最高の出演者である。
「世界一小さな劇場」と称しての喫茶ヴィオロンでは、正面舞台(実際には舞台でも何でもない空間に過ぎない)では、3名並ぶのが精一杯である。それでも今回は正面に4人、観客席から一段上になった左側の側面に4人が並んでの出演となっている。
 新地球座の公演の観客は、出演者の関係者やプロの俳優、演出者などがほとんどであるが、今回は全部で10名(第一部の日英語朗読の出演者を含める)の出演者ということで、その関係者も多く観客数は20名、出演者を含めての総人数30名となり、ヴィオロンの収容人数いっぱいとなった。
 今回の朗読劇は、今年一番の寒気となったこの日の寒さも、出演者、観客の熱気でその寒気をも一気に吹き飛ばすような舞台であった。
 今回久々の新地球座出演者も加わって動きが取れないなかでの演読劇であったが、非常に活気を帯びた台詞力で、動き、所作の臨場感を感じさせる朗読劇を堪能させてもらった。
 タイトルロールのヘンリー六世は、第二部に引き続いて菊地真之が演じて、静かな口調の中にも芯の通ったメリハリでその台詞・演技力を魅せてくれた。マーガレット妃も前回と同じく倉橋秀美が、憎々しいまでの猛々しさを表現し、この日風邪気味で声が十分に出ないと言っていた久野壱弘はキングメーカーとしてのウォリック伯を巧みに演じたのも印象的であった。新地球座の一員と言ってもよい存在となった西村正嗣は、クリーフォード卿やフランス側の使者、それにランカスター側のエドワード王子など3役を声色も変化させて演じた。
新地球座に久々にお目見えの臺史子は、グレー夫人とヨーク側の使者をさわやかな声で演じた。
 今回の朗読劇での大きなサプライズは、前回に続いてヨーク公を演じた瀧本忠。フランス王リューイスを演じた時、いきなり関西弁で喋り出したのには驚かされた。台詞も自分で関西弁風にあらためてのその台詞回しには、台詞そのものと、関西弁の口調に思わず聞き惚れてしまった。見事と言うしかなかった。
 そして今回の目玉出演者の一人が、グロースター公リチャードを演じる女鹿伸樹。かつてこの新地球座公演で『リチャード三世』のリチャード演じたのを観て魅せられて以来、彼のリチャードを観る(聴く)のは一番の楽しみの一つでもあった。今回、久々にこの新地球座で演じるということもあってか、テンションが1オクターブ上がった感じであったため、それを受けるエドワード四世役の高杯正彦が、思わず台詞を引いてしまうほどであった。『ヘンリー六世・第三部』の後半部はそのまま『リチャード三世』へと引き続く内容であるだけに、このままリチャード三世を彼に演じ続けてもらいたい迫力であった。
 これら8名の出演者の多彩なバラエティさで、これまでの中でも最も印象的で、最も楽しませてもらえた公演の一つとして、記録(記憶)させられるものであった。

 

翻訳/坪内逍遥、監修/荒井良雄、台本構成/高木 登、演出/高橋正彦
1月24日(水)18時30分開演、阿佐ヶ谷・名曲喫茶ヴィオロン


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