早稲田シェイクスピア・プロジェクト特別公演 『夏の夜の夢』     No. 2024-003

 早稲田シェイクスピア上演プロジェクト(WSP)は、台本を手にしてシェイクスピア作品を上演するプロジェクトであるが、今回そのプロジェクトに「特別公演」とあるのは、在校生だけでなく卒業生を含めた過去にこのプロジェクトに参加した有志が集まっての上演ということからだという。
 今回その特別公演にシェイクスピア・シアター代表の高山健太氏を演出に迎えての上演である。
 『夏の夜の夢』は、故ピーター・ミルワードに言わせると、日本で一番上演されているシェイクスピア作品であり、自分としてもこれまでに100回近くその公演を観てきている。それだけに食傷気味な面もないわけではないが、それでも観続けているのは、何度見ても新たな発見や新しい魅力的な工夫を見ることが出来るからである。
 台本を手にしてのリーディング上演とはいえ、普通の上演と変らない演技を加えたのびのびとしたリーディング上演を、時に声を出して笑ってその演技とリーディングを楽しませてもらった。
 台詞はほとんど体に入っており、演読劇を越えたものとなっていて、終盤の結婚式の後の祝宴の劇中劇の場面では全員台本を持たない通常の舞台劇となって進行した。
 これまでどの演出でも目にした事のない工夫としては、森の中でヘレナがデミートリアスを追いかける場面で、見えない存在としてのオーベロンが、ヘレナから逃げ回るデミートリアスの足を引っかけて何度か転倒させる。何気ない所作だけに非常に面白く、新鮮な驚きを味あわせてもらった。
 小道具も最小限ながら活用し、パックは赤い風船のような道化の鼻をつけ、ボトムがロバに変身する時にはロバの頭をつけ、スナッグが劇中劇でライオンを演じる時にはライオンの面をつける。
 登場人物を10人で演じるのでパックの役を演じる三宅美和子さん以外は全員が一人二役を演じる。いずれもその二役の違いの演技を楽しませてくれたが、なかでもライサンダーとボトムを演じた松岡瑞季さんは熱演・力演のパワフルな演技がひときわ際立っていた。
 デミートリアスと劇中劇でシスビーを演じるフルートの二役を演じる大西直輝君も、シスビーを演じる時の声色の工夫が笑いを誘う。
 祝宴も終わった深夜の妖精の世界では全員が登場し、全員での台詞の声をそろえての唱和、それが終わってパックがエピローグの口上を述べる場面では、パックを中央にして全員が舞台全体に座って居並び、パックが挨拶の口上を終えると全員が深々と頭を下げ、この劇の感動のさわやかな悦びがどっと胸に迫ってきた。
 出演者は、先にあげた登場人物以外に、オーベロンとシーシュースに柴田清香、タイテーニアとヒポリタに上原舞夕、イージアスとクインスに新妻野々香、ハーミアと豆の花に中山珠緒、ヘレナとスターヴリングに青木みなみ、スナッグと蜘蛛の糸に高山千香葉、スナウトと芥子の種に徳永正。
 全員、その台詞回しと所作に、シェイクスピア・シアターの高山健太氏の指導がはっきりと感じ取られ、なかでもそれがよく表れていたのが、オーベロンとシーシュースを演じた柴田さん。
 いうなれば、シェイクスピア・シアターの研究生の芝居を観ているような台詞回しで、懐かしいような感じがして、観て、聴いて観劇し、至福の感動の喜びを味あわせてもらった。
 若さにあふれた、さわやかなリーディング演読劇を楽しませてもらった。
 上演時間は、休憩なしで2時間。

 

翻訳/小田島雄志、演出/高山健太(シェイクスピア・シアター)
1月21日(日)14時開演、早稲田キャンパス8号館106教室


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