吉祥寺ダンスLAB. Vol. 6 小野彩加・中澤陽 スペースノットブランク
           新作公演 『言葉とシェイクスピアの鳥』    
  No. 2024-002

 タイトルにある「シェイクスピア」に惹かれて予約申し込みをした。
 武蔵野文化生涯学習事業団のチラシのキャッチコピーに「舞台芸術の歴史上大きな影響力を持つイギリスの劇作家ウイリアム・シェイクスピアの戯曲に登場するヨーロッパのムクドリが、アメリカで増殖し社会問題となったとされる都市伝説を手掛かりに、言葉の持つ権力性や舞台への侵入を舞台として描く」とあり、そのことにも興味があってシェイクスピアのどの作品にムクドリが現れるのか、シュミットのレキシコンにあたって見た。
 用例は1件のみあって、それは『ヘンリー四世・第一部』1幕3場におけるホットスパーの台詞に使われている。それは、
 'Nay, I'll have a starling shall be taught to speak/ Nothing but 'Mortimer'(椋鳥に「モーティマー」とだけ鳴くよう芸を仕込み:小田島雄志訳)
 この劇を観た結論から先に言えば、この劇はまったくシェイクスピアに関係ないとしか思えなかった。
 脈絡のない会話の台詞と自由勝手な動きのダンスで、その台詞もダンスもストイックな緊張感を強いるもので、イミシンチョウな台詞やダンスにシェイクスピアとの関連を追い求めて観ていると疲れてしまう舞台でもあった。
 シェイクスピアに関連する台詞はもちろん、シェイクスピアの名前すらも出てこない。また、肝心のムクドリの言葉も出てこない。その代わり、チェーホフの名前だけは何度か繰り返し聞かされる。
 ストーリー性というものはまったくないといってもよいが、休憩後の後半部の舞台の始まりで、出演者総出によるダンスで「鳥」の動きを表象化しているのを感じさせたのが唯一タイトルの「鳥」との関連性であった。
 吉祥寺シアターでは「ダンスと言葉の劇的融合」を目指して「ダンスの実験室」をシリーズで開催しているが、この劇も「身体×言葉」の新境地を開く「最先端」「最前線」の舞台として取り上げられている。
 シェイクスピアという言葉が入っていなければ絶対観ることのなかった舞台を観る機会を得たという意味では、まさに自分にとっての「シェイクスピア」であった。
 出演者は全部で15名。
 上演時間は、途中10分間の休憩を入れて、145分。

 

演出/小野彩加・中澤陽
主催・企画・製作/武蔵野文化生涯学習事業団、スペースノットブランク
1月13日(土)17時開演、吉祥寺シアター、チケット:3500円、整理番号21番、全席自由


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