『ヘンリー六世・第二部』は、台詞のある登場人物だけでも40人を超えるが、ジャック・ケードの暴動などの脇筋をカットし、この朗読劇では13人の登場人物に絞って、それを今回は7名の出演者によって演じられた。
7名の出演者の内、一人一役は、この朗読劇の要の人物であるマーガレット妃(倉橋秀美)とヘンリー六世(菊地真之)、それにヨーク公爵(瀧本忠)の3名のみで、他の4名は2役、3役と演じる。
英国史劇は一人一役でさえ、英国史に疎いわれわれにとっては誰が誰か、また、人物の関係もつかみにくい所に加えて一人複数役であるので、この朗読劇の観客には随分分かりにくいであろうと心配であった。
第二部は、ヘンリー六世とマーガレット姫の結婚から始まり、ランカスター家とヨーク家における三十年戦争の始まり、いわゆる薔薇戦争の発端となるセント・オールバンズの戦いで、白薔薇のヨーク家の勝利したところで終る。
副題に「リチャード見参」としているが、これは正統な王位継承者であることを主張するヨーク公リチャードと、その息子、後のリチャード三世の二人を表象している。もっとも、この劇の終わりのセント・オールバンズの戦いで活躍する後のリチャード三世は、史実としてはその時点ではまだ3歳に過ぎないのだが、シェイクスピアの筆にかかると立派な成人の武人として描かれている。
出演者の役どころとそれぞれの見どころ(聴きどころ)が多々あり、そこがこの朗読劇の魅力となって大いに楽しませてくれたばかりでなく、当日の観客(聴衆)の反応も大変良かったように見えた。
一人一役のそれぞれの出演者で、マーガレット妃を演じた倉橋秀美は、王ヘンリーとの結婚の場では初々しい愛らしさを演じるが、しだいにその本性を表していき、王ヘンリーに対して居丈高となって憎々しさを増幅していくその演技がうまく、見どころ、聴きどころとなっていた。
対する王ヘンリーを演じる菊地真之は、普段は優しく、清楚な弱々しさを見せているが、時に芯のあるところを表出する役柄として、メリハリのある台詞力と演技で好感を誘う。
ヨーク公を演じた瀧本忠は、王権を主張する立場の地位の立ち位置をしっかり掴んだうえでの演技と台詞力であった。
グロースター公の妻エリナーを演じた石井麻衣子は、リチャード(後のリチャード三世)との二役を演じたが、リチャードを演じる時には衣装も変えての熱演で、観る側としてその変化のうまさを存分に味あわせてもらった。
演出を兼ねる高橋正彦は、サッフォーク公爵とクリッフォード卿を演じ、ベテランの久野壱弘は、安心感のある政府力と演技力で、グロースター公爵、ソルズベリー伯爵、サマセット公爵の3役を演じ、西村正嗣は枢機卿ボーフォート、ウォリック伯爵、バッキンガム公爵、それに使者の声などを若々しく、多彩に演じた。
故荒井先生が坪内逍遥訳シェイクスピア劇の伝統を継続していくことを託して新地球座を発足させてから今年がその10周年であったが、次なる使命は次世代を育てていくことにある。
その意味では、最近新地橋座での出演が常連化してきた西村正嗣と、今回グレイ夫人とリチャードとの二役を好演した石井麻衣子の、若い二人には今後を期待したい。
また観客あっての舞台であるが、その観客も今回は若い人がかなり参加されており、こちらも今後を期待したい。
上演時間は、ほぼ1時間であった。
翻訳/坪内逍遥、監修/荒井良雄、台本構成/高木 登、演出/高橋正彦
11月22日(水)18時30分開演、阿佐ヶ谷・名曲喫茶ヴィオロン
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