2023年観劇日記
 
   第20回 明治大学シェイクスピアプロジェクト公演
       『ハムレット』 ―行こう、僕の運命が呼んでいる   
   No. 2023-029

 足掛け3年に及ぶ新型コロナウィルス・コロナ感染による自粛が今年の5月にやっと全面的に解除されて早半年近くが経過し、恒例の明治大学シェイクスピアプロジェクト(MSP)も今年はほぼ正常に開催された。しかも記念すべき20回目の公演として。
 MSPの足取りをたどって見ると、2004年に学部門間共通総合講座「シェイクスピア劇の現代的魅力」から「明治大学文化プロジェクト」として立ち上がり、第1回目公演として『ヴェニスの商人』が上演され、第6回公演の『ハムレット』から学生たちのチームによる翻訳で上演されるようになり、2011年からその名も「明治大学シェイクスピアプロジェクト」と改称され現在に至っている。
 僕がこの明治大学のシェイクスピア劇公演を知ったのは、第6回目の『ハムレット』公演で、学生たちによる翻訳が、学生言葉の現代風若者の言葉を駆使した斬新的な翻訳という評判を漏れ聞いてからである。残念ながらその時は評判を聞いただけに終ってしまったが、この学生翻訳チームのメンバーの一人であるOさんから翌年の『夏の夜の夢』公演の案内をいただいてから、毎年観劇するようになった。
 『夏の夜の夢』の観劇日記には、<一言でいえば「驚嘆」に尽きます。プロの指導を受け、プロとのコラボレーションとはいえ、学生の力でこれほどまでにレベルの高いものとは正直いって思ってもいませんでした>とその感想を記している。
 そして今回は、記念すべき20回目の公演で、はじめて学生たちによる翻訳での公演となった『ハムレット』の新たなる再演。そのキャッチフレーズも、「行こう、僕の運命が呼んでいる」と、心が踊らされるものである。
 開演に先立って、劇中の旅回りの役者役たちが登場し、コーラス的に開演前の諸注意などを語り、そこへ二人の旅行鞄をさげた若者が登場(この二人はあとでギルデンスターンとローゼンクランツであったことが判明する)し、役者たちを追い越して先に退場していく。
 そして開演と共に宮廷人たちが登場し、謁見の場から始まるような雰囲気を醸し出し、中央の階段の舞台にハムレットが登場して、「生きるべきか、死ぬべきか」の独白を語り、舞台前方では宮廷人たちによってコロスとも思われるような無言の舞踊風所作が演じられ、その斬新な始まりにいきなり引き込まれていく。この演出はこの劇のプロローグのようでもあった。
 このMSPは観客にも大人気であるだけでなく学生たちにも人気があり、年々その参加者の応募者が増加して今では200名を超えるという。そのため演目にも工夫が凝らされてきているが、キャスティングにもそれが表れているのが感じられた。
 周知のようにシェイクスピアの時代には女優がいなくて、女性役は少年俳優が演じており、そのため女性の役が少ない。今回、出演者の総人数は23名であり、男女の出演者の内訳は、男性14名、女性9名である。ということで、男性役を女性が演じるキャスティングの工夫がなされており、その配分が絶妙である。
 ハムレットの親友役のホレイショ―を女性に演じさせるのをはじめ、衛兵のマーセラスとバナード、ギルデンスターンとローゼンクランツをそれぞれ男女に分けてキャスティングしている。また、墓堀人やノルウェーへの使者役を3人にして、それぞれ女性を加えている。そのバランス感覚がいい。
 出演者の学年構成に目を移すと、4年生が4名、3年生が7名、2年生が7名、1年生が5名となっていて、伝統を引き継いでいくうえでも申し分ない構成と言える。
 継続性という点で興味深いのは、今回演出を担当している高橋奏さんは、昨年『夏の夜の夢』でボトムを演じており、その喜劇的演技からは真逆とも言える悲劇を演出しているという面白さもある。
 『ハムレット』といえば、やはりハムレットその人に興味が集中しがちであるが、今回ハムレットを演じた佐藤祥悟君(文3)は、「等身大のハムレット」で、ある意味では安心して見ていられるハムレットで、未知なる運命を突き抜けていく若者を感じさせた。
 本来の男女、ハムレットとオフィーリア、クローディアスとガートルードの対の演技と共に、ハムレットとホレイショ―、ロゼとギル、マーセラスとバナードなどの対になった男女の妙味の演技も楽しませてもらった。
 突っ走る舞台を象徴するかのように、2時間30分の上演を休憩なしで駆け抜けた。


翻訳/(学生翻訳チーム)コラプターズ、演出/高橋奏、プロデューサー/宮嵜明理、監修/西沢栄治
11月6日(月)12時開演、明治大学駿河台キャンパスアカデミーコモン3Fアカデミーホール
座席:Dブロック、15列11番(招待席)


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