「国際シンポジウム:文化交流としてのシェイクスピアの翻訳」の最後のイベントとして、シェイクスピア・シアターの小田島雄志訳による『夏の夜の夢』が上演された。
その上演にあたって演出家からのメッセージとして、「僕たち役者たちは常に翻訳されたテキストを使っているわけですが、その際に大切にしていることは、普段使っている原語で、シェイクスピア作品の持つ魅力、面白さを生きた言葉として観客にそのまま伝えていくことです」と述べている。
今回は国際シンポジウムのイベントとしての上演ということもあって、外国の方の観客も見受けられたが、自分の隣の外国の方も身を乗り出して、時には笑い声も出していたので、言葉は分からなくてもその面白さが十分に伝わっていたと思われる。
上演は大成功であったと思うが、その上演に当たっては思わぬハプニングが発生して、劇団としては肝冷やであったであろう。というのは、上演の当日早朝、出演者の一人が体調を崩し、降板となった。 そのため、急遽、シェイクスピア・シアターのOBを招き、代役を務めてもらうことになった。
上演当日ということもあって稽古の時間も十分ないまま本番のため、台本を持っての演技であったが、その台詞力はさすがであった。その代役ボトムの役を務めたのは、全身汗にまみれて奮闘した平澤智之。シェイクスピア・シアターを退団して以来の彼をはじめて見る機会を得たので、個人的には懐かしさとともに彼の演技を楽しむことが出来たのが拾い物であった。
シェイクスピア・シアターの舞台は、スピード感のある演技と言葉のリズムとテンポを楽しませてくれるが、今回その中でも特に注目したことが一つある。
それは、冒頭の場面でハーミアがシーシュース公爵にライサンダーとの結婚を諫められたところで、彼女は思わずヒポリタの処に駆け寄ってその胸に抱きつき、ヒポリタも彼女を優しく包み込んだのを見て、思わずうまい演出だと感心した。ごく自然な動きで、しかも納得のいく演技で、これまでにないはじめて見る光景で、新鮮であった。
演技面では、今回ヘレナを演じた加藤友梨の演技にこれまでになく惹かれた。ハーミアを演じる多田菜摘の快活さとの対称もあって、彼女のパーソナリティに地味さを感じるのだが、その地味さが却って磁石のように強く引き付ける力を発揮していたように思え、今回特に印象深く感じられた。
登場人物の面白さでは、劇の冒頭部でハーミアの父親イージアスを演じた加藤拓二が、アテネの職人たちのひとりスナッグ(劇中劇でライオンを演じる)や、妖精「蜘蛛の糸」を演じたことであった。特に、蜘蛛の糸の彼の演技に飄々とした愉快さがあった。
劇の要は何と言っても舞台進行の中心、核となっているパック役の高山健太、それにシーシュース公とオーベロンを演じる西尾港介、ヒポリタとタイテーニアを演じる高村絵里であった。彼等の登場は、アテネの町では素顔で、夜の世界(妖精の国)では半仮面をつけることで区別された。
他に、ライサンダー役の山本駿哉、ディミートリアス役の川口徹治、アテネの職人たちのクインスに 西山公介、スナウトの竹内瞳、フルートの堀田尚吾、スターヴリングと妖精「豆の花」に井上華純、総勢13名の出演。
上演時間は、休憩なしで2時間。途中心配された雨も降らず、逆に一時、日が照り付けて暑かったが、役者たちの演技の熱さで、時にその暑さも忘却して楽しんで観劇。感激!!
翻訳/小田島雄志、演出/高山健太
主催:早稲田大学国際日本学拠点、共催:早稲田大学演劇博物館
9月30日(土)15時開演、早稲田大学演劇博物館・客席は屋外、無料
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