2023年観劇日記
 
   新地球座公演・荒井良雄沙翁劇場 第37回
     『ヘンリー六世・第一部』 ―フランスの三人の女の闘い― 
   No. 2023-024

 英国史劇、中でも『ヘンリー六世』三部作は登場人物が多く、第一部でも40名近くが登場する。
 新地球座は今年10周年を迎えたことでそれを記念して、これまで新地球座に参加していただいた方を客演に招いて出演してもらっており、今回は新地球座のメンバー以外に4名の客演で、総勢7名が出演。
 第一部は、薔薇戦争の序幕ともいうべきイングランドとフランスとの間の百年戦争の末期を舞台に展開する。イングランドの代表がタルボット、フランス側の代表がヂョーン・ラ・プーセルことジャンヌ・ダルクで、その両者を新地球座の久野壱弘と倉橋秀美が演じる。
 後のフランス王ドーファンを客演の菊地真之、ヘンリー六世を同じく客演(と言っても最近では新地球座の常連となっている)西村正嗣、サッフォークを、演出を担当する高橋正彦が演じ、フランス側のオーヴァーニュー伯夫人を客演の北村青子、マーガレットを同じく客演の白井真木。高橋正彦と西村正嗣は他の登場人物を複数演じる。
 演出上の工夫としては、場面ごとに何幕何場のどの場所であるかを読み上げ、観客にどういう場面であるのか分かるようにしていたことと、劇中の「ト書き」も必要に応じて加えていたので、状況が呑み込みやすかったのではないかと思う。
 副題に「フランスの三人の女の闘い」と付けてあるように、女性の登場人物に特に焦点を当てて展開させる構成としている。その中核であるプーセルを新地球座の代表である倉橋が務めるのは順当なところであるが、注目に値したのが、オーヴァーニュー伯夫人を演じた北村青子と、マーガレットを演じた白井真木の二人の客演であった。そのお二人は、期待通りというか、期待を上回る演技で魅了してくれた。特に、最後に登場したマーガレットの白井真木は、わずかワンシーンの登場ですべてをさらっていったとも言える見事な演技で感服させられた。
そのマーガレットは第二部では出番が多いのだが、次回のキャスティングでは、10周年記念ということでこれまでかかわってきた多くの人に出演してもらうということもあって、別の人が演じることになっているのが、口惜しい気がする。
 同じく客演でドーファンを演じた菊地真之は、いつもその台詞力を聴くのを楽しみにしているが、今回もその声に魅了させられ堪能した。
 イングランドの代表人物、タルボットを演じた久野壱弘の台詞力も、タルボットは彼でなくてはと思わせる見事さで魅惑させてくれたのは期待通りであった。
 新地球座に常連出演するようになってきた西村正嗣は一人で何役も奮闘し、ますます楽しみな存在となってきた。
 多くの協力を得た、10周年記念にふさわしい上演であった。
 客演の方々と、当日、多くの方々に参加していただいたことに、関係者の一人として感謝の言葉を贈りたい。


翻訳/坪内逍遥、監修/荒井良雄、台本構成/高木登、演出/高橋正彦
9月27日(水)18時30分開演、阿佐ヶ谷・喫茶ヴィオロン


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