2023年観劇日記
 
   500年越しの運命 映画 『ロスト・キング』 
           ~ リチャード三世を探し求めて ~  
   No. 2023-023

 2012年、英国中部の町レスターの駐車場でリチャード三世の遺骨が発見された時、駐車場跡の再開発で偶然発見されたものと漠然と思い込んでいたのを、その思い込みをこの映画を見て完全に覆された。
 事実と映画の違いがどこまであるのか分からないが、リチャード三世の遺骨を発見するまでのプロセスが、ミステリー的なサスペンス映画を見るような興奮に吸い込まれていった。
 主人公のフィリッパ・ラングレー(サリー・ホーキンス)は、離婚した夫との部分的共同生活の中で二人の息子を育てている主婦で、元夫との二重生活を支える為に働いている。
 映画は、ラングレーがその職場での新しいプロジェクト編成で、キャリアを無視されて最後の枠を新人の女性に取られてしまうところから始まる。
彼女は、先天性の筋痛性脳脊髄炎(ME)という障害を抱えており、自分が漏れたのはそのせいだと考える。この彼女の障害が、息子と観劇した劇『リチャード三世』で、そのリチャードが肉体的欠陥を強調して、彼を悪人に仕立て上げられていることに疑問を持つきっかけとなっているような結びつきを感じさせる設定となっている。
 彼女はリチャードの容貌を強調した悪人説を否定するため、彼に関するあらゆる本を買い求め、いろんな学者たちとも接触をはかっていき、最後にはリカーディアンのグループに参加するようになる。そして、彼の最後の場としての埋葬された場所が特定されていないことで、それを発見することに執念を燃やす。
 そんな彼女の前に、リチャード三世を演じた俳優がリチャード三世の姿で何度も現れるようになり、彼女の意欲が一層煽りたてられる。このリチャード三世を演じた俳優とは、この映画の最後の方で、彼女がリチャード三世の遺骨発見をしたという栄誉を受ける場面で再会するという演出をしていたのも注目された。
 遺骨発見のための発掘作業は、彼女の奮闘がなければ為し得なかったことであるが、そのプロジェクトに後ろ向きで冷淡であった大学が、彼女の知らないところでプロジェクトの発起人となっているだけでなく、彼女の名前は一切面に出されず、遺骨が発見された時も大学がすべてイニシアティブを取り、彼女の出る幕はない。
 はじめ、この大学のアカデミズムの権威主義や破廉恥とも言える対応に腹が立って感じられたのだが、大学も政府から予算を削られ、考古学の発掘作業を担当するリーダーも解雇せざるを得なくなったりしている。政府の実利至上主義、功利主義は、日本の現状を考えても、いずこも同じと、ある意味では共感せざるを得ないとさえ思え、その大学の対応に対しても少し考えが変わった。
 また、映画では、発掘作業の資金調達に、当初は否定的であった元夫が子供たちの要望に応えて、自分の新車を売って2000ポンドの無記名寄付をしたのも、心温まる気がした。
 ラングレーのリチャード三世の遺骨発見に対する執念は、シェイクスピアベーコン説を主張して、シェイクスピアの墓を暴こうとした19世紀アメリカの女性研究家ディリー・ベーコンの事を思い出した。
 上映時間は、108分。


スティーヴン・フリアーズ監督、ジェフ・ポープ脚本
9月25日(月)、日本橋・TOHOシネマズにて、料金:1300円(シニア)


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