2023年観劇日記
 
   第20回明治大学シェイクスピアプロジェクト・ラボ公演
     『新ハムレット』 ~どっちがいいのか僕には、わからん!~  
   No. 2023-020

 劇の始まりは、板付きのハムレットが開演と共に太宰治の『新ハムレット』の「はしがき」を読み始める。そして「此の機会に、もういちど、沙翁の『ハムレット』を読み返し、此の『新ハムレット』と比較してみると、なお、面白い発見をするかも知れない」という台詞に付け加えて、11月の本公演『ハムレット』のPRをする。
 そう、これは11月の第20回MSP本公演『ハムレット』に先立つ、本公演と関連する演目の実験的ラボ公演。
 プログラムのキャッチフレーズの「どっちがいいのか僕には、わからん!」は、『新ハムレット』でハムレットがホレイショーに対して吐く台詞で、「忍従か、脱走か、正々堂々の戦闘か、あるいはまた、いつわりの妥協か、欺瞞か、懐柔か、to be, or not to be、どっちがいいのか、僕には、わからん」から抜き取られたもので、いわゆるハムレットの第四告白の台詞の一部の翻案である。
 この台詞をキャッチフレーズとしているところに、この劇の演出の意図を感じさせたのだが、肝心の台詞は劇中では特別な感じとしては響いてこなかったが、それでいいと思っている。そのことにむしろこの劇の全体的な特徴、あるいは印象を感じるものがあった。つまり、ハムレット一人が突出した主役でなく、それぞれの出演者が持ち分の役割を演じる全員野球という印象である。
 劇の演出としては本文とかけ離れたような特別な仕掛けもなくテキストに忠実に進行していく。ある意味では平凡に展開していく(劇が平凡という意味ではない)。が、それだけに最後が、印象的であった。
 この劇がすべて終わった後、ハムレットが一人座った姿勢で残っていて、本を開いて読んでいる。そこへ奥から父親がやって来て彼に、「まだ、起きていたのか?!」と声をかける。そこで舞台は暗転し、終わる。ほんの短い、一瞬のことであるだけに意表をついて、この場面がこの劇のすべてを語りつくしているように感じさせるものがあって凄く印象的であった。
 出演は、粗雑で投げやりな感じのするハムレットを阪上祥貴が演じ、妊娠した女の強さを感じさせるオフィーリアに横山心花、老獪な策士のポローニアスに西川航平、ギルデンスターンとローゼンクランツを思わせるお調子者のホレイショーに小山春樹、慇懃さの中に策謀を秘めるクローディアスに醍醐慶喜、入水自殺するガートルードに麻生日南子、ノルウェー軍との海戦で海の藻屑と消えるレアティーズに大友彩優子の7名。
 上演時間は、休憩なしで80分。


作/太宰治、プロデューサー/宮嵜明理、演出/養父明音、テキスト/新井ひかる・井上優
9月9日(土)14時開演、明治大学猿楽町第2校舎1Fアートスタジオ


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