2023年観劇日記
 
   新地球座主催・荒井良雄沙翁劇場 第36回 
     10周年記念公演 『トロイラスとクレシダ』   
         No. 2023-019

 新地球座発足10周年記念ということで、第二部の朗読劇『トロイラスとクレシダ』の開幕に先立って代表の倉橋秀美の挨拶があり、、新地球座発足の経緯と、この10年間の歩みの紹介がなされた。
 また、毎回参加者に配布しているプログラムのチラシとともに、この10年間に上演した演目と出演者を記した『新地球座による坪内逍遥訳シェイクスピア朗読劇の歩み』も合わせて配布された。
 第一部ではいつものようにシェイクスピアのソネット(18番と60番)の日英語朗読(英語朗読を高木、高木訳を倉橋秀美、逍遥訳を久野壱弘)、続いて尾崎廣子が辻邦夫の『十二の風景画への十二の旅』から『金の壺』、森秋子がモーパッサンの『クロシェット』を朗読し、5分間の休憩の後、第二部の『トロイラスとクレシダ』の朗読劇。
 今回の演目、『トロイラスとクレシダ』は、2019年9月にも一度上演されているが、前回クレシダ役の森秋子が倉橋秀美に変わったのを除いて前回と同じ出演者で、トロイラスを高橋正彦、パンダロスを久野壱弘が演じた。また、大河原嵩子が前回と同じくピアノ演奏で特別出演した。
 出演者が一人一役のみということで登場人物も3人だけで、タイトルロールのトロイラスとクレシダ、そして二人の仲を取り持つクレシダの叔父パンダロスだけの構成となっているが、それに演出の高橋がトロイア戦争のいきさつを語らせる「開場詞」の台詞を加えたことで全体の眺望を理解する助けとなっている。
 前回の朗読劇の観劇日記には出演者の衣装の工夫が特筆されているが、今回は出演者が半仮面をつけるというこれまでにはなかった新しい試みがなされたことが特に注目された。
 前回同様、各場面における大河原嵩子のピアノ演奏がその場その場の劇的効果を増幅し、非常に効果的であっただけでなく、この朗読劇の主旋律を呈していたと言っても過言ではないほど見事であった。しかも、それが事前打ち合わせなしの即興演奏であると聞いてなおさらの驚きであった。なかでも最後の場面で、久野壱弘が演じるパンダロスの台詞の一言一言に先立って、大河原がピアノ演奏をかぶせ、久野がそのピアノ演奏に伴走するかのように一行一行の台詞を、間をおきながら語ったのは圧巻で、この劇の最後の締めくくりを感動的なものにした。
 終演後、出演者全員と参加者大半の有志とで、阿佐ヶ谷駅前アーケード商店街の中の餃子屋で打ち上げ、大いに盛り上がった10周年記念となった。


坪内逍遥、監修/荒井良雄、台本構成/高木登、演出/高橋正彦
(特別出演)ピアノ演奏:大河原嵩子
7月26日(水)18時30分開演、阿佐ヶ谷・喫茶ヴィオロン、
参加費:1000円(コーヒー付き)


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