2023年観劇日記
 
   文学座公演 『夏の夜の夢』           No. 2023-017

― 稽古中に、今回の「テーマは恋」と宣言した、鵜山仁 ―

 劇場に入るとまず目についたのが、プロセニアム・アーチの白い大きな額縁。このプロセニアム・アーチは開演して前面の紗幕が上がると、それが三層構造になっているのが目につき、奥に行くほど一回り小さくなって、一番奥には生演奏用の打楽器が据えられている。各プロセニアム・アーチに紗幕があり、場面状況によってその紗幕の内と外で劇が展開するだけでなく、時にそれが映像のスクリーンとして活用され、抽象化された森のイメージなどが映し出される。また、真ん中のプロセニアム・アーチは裏側に梯子が取り付けられていて、パックやオーベロンがこのプロセニアム・アーチに昇って上からアテネの若者たちの恋騒動を見物するのに使われたりする。
 今回の文学座公演の『夏の夜の夢』の特徴の第一がこのプロセニアム・アーチを用いた舞台美術とすれば、第二の特徴はキャスティング。キャストを4分類し、第一は「人間の世界―貴族・紳士・淑女たち」、第二は「人間の世界―職人たち」、第三は「劇中劇の役柄」、そして第四が「妖精の世界」。シーシュースとオーベロン、ヒポリタとタイテーニアのダブリングはごく普通であるが、極めつきはアテネの職人たち5人が妖精の「豆の花」、「蜘蛛の糸」、「蛾の羽根」、「芥子の種」、「とにかく妖精」を演じるダブリングとなっている。それもアテネの職人たちを演じる俳優たちはほとんどが「老優」と呼んでも差し支えない高齢。その高齢な役者たちが髭面のままの顔で、派手な衣装をつけての妖精の姿は見ているだけで笑いを誘う。ハーミアの父親イージアスがパックを演じたが、これはたまに見かけるダブリング。ということで、今回の見どころは、アテネの職人たちを演じるベテラン(老優という意味合いに於いて)たちの演技、というかその存在であった。
 今一つの特徴、というより気になった演出は、イージアスが娘のハーミアを訴え出たとき、その間の会話の間、ヒポリタはひとり舞台後方に坐して、その座った様子が、蝶が羽根を閉じて花にでも止まっているような姿、あるいはヨットの帆のような三角形の形をした状態で、黙ったままでいたことであった。何か深い意味があるようなないような微妙な感じであった。
 またこれもよくあることだが、職人たちの職業の変更。クインスの大工と仕立屋のスターヴリングは同じだが、機屋のボトムは肉屋、指物師のスナッグは鍛冶屋に、ふいごなおしのフルートはパン屋に、鋳掛屋スナウトは薬屋にそれぞれ変更されていた。肉屋のボトムは、その名前がニック・ボトムだから音の響きを絡ませているとしていいとしても、その他は変更の必然性がほとんどないが、お遊びとして許容。
 舞台の見どころ、中心がアテネの職人たち(妖精役を含めて)に目が行くので、若者たちの「恋」のテーマ性についてはあまり意識することはなかった。これはこれまでにも『夏の夜の夢』をいやというほど観てきているせいかもしれない。既視感があるので、あまり深く考えることがなかった。
 動きはあるのに、なぜか全体的にかったるい感じで、始めから終わりまで何度も眠くなってしまった。特にパックの動きと台詞の調子が緩慢に感じられたのと、オーベロンもなんとなく退屈であった。
 終わりの全員揃っての踊りが気分ものって一番よかった。
 出演は、パックとイージオンを演じた中村彰男、シーシュースとオーベロンに石橋徹郎、ヒポリタとタイテーニアに吉野美紗、大工のクインスに清水圭吾、肉屋のボトムに横山祥二など、総勢13名。
 上演時間は、途中15分の休憩を入れて、2時間30分。


訳/小田島雄志、演出/鵜山仁、美術/乗峯雅寛、映像/浦島啓
音楽・演奏/芳垣安洋、高良久美子、照明/賀澤礼子、衣装/原まさみ
6月29日(木)18時30分開演、紀伊國屋サザンシアター
チケット:4500円、座席:2列7番、パンフレット:500円


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