2023年観劇日記
 
   シェイクスピア・シアターNew Place、喜劇2作品一挙上演  
      感涙の 『夏の夜の夢』、感動の共演 『間違いの喜劇』    
 No. 2023-012

 昨年5月に高山健太が新代表として新生シェイクスピア・シアターを新発足して以来、学校公演や上野西洋美術館で絵画とのコラボレーションの『ハムレット』を公演するなど活動を続けてきて、今回初めての劇場本公演として、5月10日(水)から12日(金)の3日間、『間違い』を3ステージ、『夏』を2ステージ上演、自分は他の予定や都合もあって千穐楽にこの2演目を観劇した。
 千穐楽を観劇した雰囲気の印象は、観客との共演、競演という熱気と温かさと、祝福に溢れる舞台であった。
 出口典雄がシェイクスピア・シアターを旗揚げしたのが1975年、それから半世紀近くその活動が続けられており、出口典雄の手法(メソッド)がこの新生シェイクスピア・シアターにも引き継がれており、個人の手法が次世代に引き継がれていく劇団というのは稀有な存在であり、もう立派な伝統芸能といえる。
 新生シェイクスピア・シアターの最初の本公演が『夏』と『間違い』が選ばれたのは、個人的には感慨深いものがあり、大いに歓迎するところである。このことはいろいろな場でこれまでにも幾度も触れてきたことであるが、僕にとってシェイクスピア・シアターの『間違いの喜劇』と『夏の夜の夢』は特別な思いがある。日本のシェイクスピアがこれほど面白いと思ったのは、このシアター公演の『間違い』であり、『夏』で、『間違い』の白い大きなボールと半仮面、『夏』の3バージョンの上演は、今でも最高のものの一つであると思っており、その思いは今も変わらない。

 今回最初に観たのは『夏の夜の夢』。
 アテネの町の世界では、人々は普通の姿であるが、森の世界では妖精たち全員が半仮面をつけている。アテネの町から森に飛び込んで来た2組の恋人たちと、アテネの職人たちは全員、そのままの姿である。ところが、ボトムだけが芝居の稽古中、パックによってロバの頭をかぶせられて異形の姿となることによって異界の存在となって、異界の妖精の女王タイテーニアに惚れられることになる。今回、そのような意味づけを感じるという自分にとっての新しい発見があった。
 これまでの演出とは異なる点は所どころにあったが、2組の恋人たちが目を覚ますのは、狩に来たシーシュース公爵たちによってではなく、パックが目覚まし時計を鳴らして振り回しながら起こして回ることもその一つであった。
 職人たちの余興の芝居も終わって妖精たちの夜の世界に入ってから、オーベロン、タイテーニア、妖精の蜘蛛の糸、それにパックによる歌で締めくくられる。この歌がすばらしく、感動的であった。
 そして、最後のパックの口上。その口上を聞き始めて、自分の体が震えるような感じがし、目が自然に熱くうるんでき出したので自分でもびっくりして、パックを見ると、パックを演じる高山健太の目が感涙に熱くうるみ、涙が溢れんばかりであった。自分の席は、B列11番で、実質最前列で、しかも中央の席であり、高山健太とは真正面に位置しており、彼の呼吸の一息一息の波動が自分に伝わってくるのだった。この、高山健太の感涙が、すべてを語っていて、後はもう何も書く必要はないとしか書けない。
 主な出演は、パックの高山健太のほか、シーシュースとオーベロンに西尾洪介、ヒポリタとタイテーニアに難波愛、イージアスとスナウトに立花真之介、ハーミアに多田菜摘、ヘレナに加藤友梨、ライサンダーに山本駿哉、ディミ―トリアスに川口徹治、ボトムに三田和慶、クインスに西山公介、劇中で歌を歌う妖精蜘蛛の糸にあまい、ほか。
 上演時間は、休憩なしで2時間。

 2時間の休憩の後、『間違いの喜劇』。
 千穐楽ということで、シェイクスピア・シアターOBのマツモトクラブ(シェイクスピア・シアター時代の松本洋平)がドローミオ兄に、アンティフォラス兄の妻エドリエーナに、高村絵里に代わって住川佳寿子が特別出演。
 アンティフォラスとドローミオの2組の兄弟は、それぞれ西尾洪介と高山健太が兄・弟を一人二役で、二人が同時に登場する場面では、アンティフォラス弟を山本駿哉、ドローミオ弟を川口徹治が演じることになっていたが、この日は、ドローミオ弟を高山健太が演じ、マツモトクラブが兄を演じた。
 劇中のテーマ音楽、真っ白なボール、そして登場人物全員が半仮面をつけての演出の基本はまったく変わっていない。
 そして一族再会の場面で、全員が仮面を外すのも変わっていないだけでなく、最後に全員が修道院の中に入っていくとき、肩をしっかり抱き合って入っていく様子もまったく一緒である。そして最後に入っていくのは、ドローミオ兄妹であるが、この二人を演じる高山健太とマツモトクラブ、というより松本洋平が、しっかと肩を叩いて、肩を寄せ合って修道院へと入っていく姿は、感動そのものであった。 『夏の夜の夢』の高山健太の感涙と合わせて、高山健太と松本洋平の感動の共演(競演)が、この公演のすべてを語っていた。
 住川佳寿子のエドリエーナが、シェイクスピア・シアター時代と全く変わらず健在で、シェイクスピア・シアターそのものを体現している台詞を聞けただけに、比較する上でも、今回、オーディションでこの役を他の回で演じた高村絵里の舞台を観ることが出来なかったのが口惜しく、残念でならない。
 出演は、ほかに主だった役で、公爵や商人のバルターザーなどに三田和慶、シラキュースの商人イージオンに西山公介、金細工師のアンジェロに崎野あかね、修道院の院主でイージオンの妻エミリアに加藤友梨、エドリエーナの妹ルシアーナに竹内瞳、ドクターピンチに湯山トミ子、娼婦にあまい、など。
 上演時間は、休憩なしで1時間45分の予定が2時間を少し超える熱演であった。

 新生シェイクスピア・シアターの劇団員、西尾洪介、西山公介、川口徹治、加藤友梨、三田和慶、高山健太はどちらにも出演し、OB二人と、オーディションでの出演者11名で、2つの公演の出演者は全部で19名であった。
 出口典雄のシェイクスピア・シアターを踏襲していくことで伝統芸能の域を保ちつつ、新たな新風を取り入れてますますの発展を願ってやまない。伝統を保つという意味では、かつて出口典雄がやっていたようにOBの活用、そして新風には今回のオーディション方式によるように、新たな人材を加えることでの異化作用も期待したい。
 今回、週初めに新型コロナウィルスが2類から5類に移行されたことで、これまで禁止・自粛されてきた上演後の出演者との交流も自由になされ、ロビーは終演後一杯の状況で、特に、シェイクスピア・シアターのOBや、劇団関係者、シェイクスピア・シアター愛好者たちで埋め尽くされており、さながら、シェイクスピア・シアターの同窓会のようでもあり、懐かしい顔ぶれもあって、それだけでも楽しく、嬉しい気分にさせられた。
 まずは、大成功として祝したい。


訳/小田島雄志、原案/出口典雄、演出/高山健太
5月12日(金)、『夏』13時開演、『間違い』17時開演、座・高円寺2
座席:『夏』B列11番、『間違い』D列15番


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