2023年観劇日記
 
   劇団AUN有志によるユニット「Dialogue!」第二弾
     『The Blues~夢幻の商人』 シェイクスピアが12倍面白い!! 
 No. 2023-009

 劇団AUNは、主宰者の吉田鋼太郎が超多忙となって以来劇団としての公演がまったくなくなり、観劇の機会が失われて残念に思っていたが、劇団員の一人、沢海陽子が若手とベテランの有志によるユニットを「Dialogue!」として立ち上げ、昨年12月にシェイクスピアの作品をいくつかをつなぎ合わせて『rehearsal~冬の夜の夢』を上演し、今回はその第二弾の観劇の機会を得ることができた。
 第一弾は残念ながら情報不足で観劇できなかったが、今回は2月に行われた「Dialogue!」主催による『役者と語ろうシェイクスピア』に参加して事前に情報を得ることが出来、早々に予約した。
 観劇の感想としては月並みな表現であるが「超!面白く」、その構成の巧みさに次はどうつながっていくのかを、ワクワクしながら楽しんで鑑賞した。
内容が濃密で1時間30分の上演時間が、その倍の3時間に思えるほど盛りだくさんであった。
 シェイクスピアの8つの作品を有機的につなげる構成の巧みさの面白さもさることながら、その導入部と結びの場の構成が、『じゃじゃ馬ならし』の序幕を感じさせた。
 舞台は、砂利を敷き詰めた舞台奥で工事人夫の「田中チャン」が、びっこをひきひき、スコップを持って作業をしているところから始まる。そこへ現場監督らしき人物「吉さん」ともう一人現れる。三人が揃ったところで、『ハムレット』の「墓堀人」の場が演じられ始められ、そこからシェイクスピアの8つの作品が織り込まれたストーリーがめまぐるしく展開していくことになる。そして最後にまた、その三人の道路工事人たちの場となって舞台が終わる。この構成は、『じゃじゃ馬ならし』の鋳掛屋スライの夢の中の劇中劇と重なっていることを想起させた。
 劇中劇としてのシェイクスピアの8つの作品の展開の見事さと面白さは、『リア王』に登場した女性たちの登場人物の名前を変えないまま、役柄と人物の関係性をずらしながら巧みにストーリーを続けていくところにある。
 「田中チャン」はリチャード(三世)となって冒頭の独白の台詞を吐き、ペトルーチオやシャイロックの役を演じ、最後にまたリチャード(三世)へと戻る。
 『リア王』では、リアは母親役となって三人の娘に家督を譲る場が演じられ、リアは末娘のコーディリアが「何も(言うことはありません)」という返事に憤慨の余りに卒倒して死んでしまう。
 『ヴェニスの商人』の場では、バッサーニオが恋するゴネリル(ポーシャ)の愛を得るためにシャイロック(リチャード)から三千ダカットを借りる場から演じられ、アントーニオはそのゴネリルの叔父で、リーガン、コーディリアの叔父でもあるという設定になっている。
 バッサーニオの代わりにリチャードがゴネリルのもとに求愛に出かける。ここでバッサーニオはオーシーノ公爵役に変じてしまっており、ゴネリルはオリヴィア、リチャードはヴァイオラ役を演じることになり、アントーニオはサー・トービー、バッサーニオはアンドルー役へと変じ、リアを演じた林佳世子がリアの道化の台詞を、『十二夜』の道化役フェステとなって語り、ポーシャ(ゴネリル)の侍女ネリッサ役を演じていた坂田周子はマライアに変じる。
 サー・トービー、アンドルー、フェステら三人の深夜の騒動、マルヴォーリオが恋文を拾う場面と黄色いソックスをはいた場面などが繰り広げられ、木で鼻をくくったような、ぶっきらぼうな態度のマルヴォーリオを演じる金子久美子の演技は、観客席からしばしばくすくす笑いが聞こえてくるほど苦みのある面白さであった。
 ヴァイオラ役を務めたリチャードは『じゃじゃ馬ならし』のペトルーチオとなってネリッサ(キャタリーナ)を口説く。
 そのリチャードがアン(リーガン)を口説く場面では、ゴネリル(オリヴィア)が舞台の陰から盗み見て嫉妬の炎に燃えるところで暗転となる演出は、詩的なイメージの余韻と、不気味な次への展開を予兆させ、ゴネリルがリーガンを殺す場面へとつながっていく。登場人物がシェイクスピアの作品の二重三重の人物として重なって感じられるという絶妙な人物のずらしがうまい。
 『ヴェニスの商人』の「法廷の場」では、ポーシャ(ゴネリル)ではなくコーディリアがアントーニオの姪としてポーシャの慈悲の台詞を語り、人肉裁判の判決を下す。絶望したシャイロックはリチャードに戻り、その場にいる全員を次々と殺していく。この場面はスロモーションの所作で演じられる。
 と、このように次々とシェイクスピアの作品が展開していくのだが、8つの作品の中で一つだけ場面と台詞に気が付かない場面があった。それは、『終わりよければすべてよし』で、これだけは不覚にもまったく気が付かなった。
 8つの作品の締めくくりは、マクベスのTomorrow speechで、「吉さん」が訥々と語って、どこにでもそこそこに住む所はあり、そこそこに生きていけると呟き、最初の道路工事の場面へと戻って行く。
 全体の要となっているのは、リチャードを演じる「田中チャン」で、彼を通してシェイクスピアの8つの作品が一つに集約されて展開されていく構成となっている。
 その要となっている「田中チャン」のリチャードを演じたのは松尾竜兵、そして「吉さん」ことアントーニオに齊藤慎平、バッサーニオに伊藤大貴、リアに林佳世子、ゴネリルに悠木つかさ、リーガンに近藤陽子、コーディリアに宮崎夢子、ネリッサに坂田周子、マルヴォーリオに金子久美子の9名が出演。
 AUNの俳優は、全員が一騎当千の芸達者ぞろいで、ストーリーの展開の面白さと共に、その演技を心ゆくまで楽しませてもらった。
 8つの作品は、順に、『ハムレット』『リチャード三世』『リア王』『ヴェニスの商人』『十二夜』『じゃじゃ馬ならし』『終わりよければすべてよし』『マクベス』。
上演時間は、休憩なしで1時間30分。
 これまでコロナ感染の関係で終演後の出演者との交流がなされなかったが、この公演でははじめて出演者と声を交わすことができたのも、嬉しい出来事の一つであった。

 

翻訳/小田島雄志、構成・演出/沢海陽子
4月16日(日)13時開演、新宿スターフィールド、
チケット:3500円、全席自由席


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