2023年観劇日記
 
   SAYNK日英語朗読劇シリーズ第15回 『アントニーとクレオパトラ』
         「戦争ではなく、愛と平和の思いを込めて」     
 No. 2023-006

 今回の参加メンバーのリストを見てこれまでのシリーズの中でも最強のメンバーであるばかりでなく、年齢構成を始めバランスの取れた構成であると観劇前から期待大であった。観劇後の感想もその期待を超えたものであった。
 『アントニーとクレオパトラ』は編纂テキストにもよるが、台詞行数は全部で3753行あり、そのうちアントニーの台詞は851行と全体の23%を占め、次にクレオパトラが686行で約15%、オクテヴィアス・シーザーが421行と続く。今回の上演の台本ではポンペイが登場する場面が全面的に削除されているが、この舞台を観た印象はアントニーの出番が50%以上を占めている感じで、観劇した感想としての第一印象は、主演のアントニーを中心にした舞台に見え、そのアントニーを演じた瀬沼達也の台詞力と演技・所作を十二分に満喫させてくれる舞台であったと言える。
 今回、年齢構成に於いてもバランスが取れた参加者と最初に書いたが、アントニーと対峙するオクテヴィアス・シーザーに若い井上寛斗が演じ、三巨頭の一人レピダスに少し年配の一花徹を配し、ヒロインのクレオパトラに門田七花、侍女のシャーミアンとオクテーヴィアの二役に林佳世子、イノバーバスに増留俊樹、アグリッパやプロキュレーアスに関谷啓子、エーロスやサイディアスなどに高村絵里、ファイローやディシータスなどに東春子、使者その他役に音響を兼ねる飯田綾乃、そしてナレーター役として佐瀬恵子など、キャスティングも絶妙であった。みな実力派であるだけに役振りにも贅沢な悩みがあっただろうと思うが、脇役が優れているほど舞台の質が高くなる。
 なかでも一番注目したのが、シャーミアンを演じた林佳世子の台詞の無い演技であった。アントニーとクレオパトラとシャーミアンが登場する1幕3場では、シャーミアンは登場しているだけで台詞がない。しかし、二人の会話の間に示すシャーミアンを演じる林佳世子の無言の演技、表情、眼の動きからずっと目が離せなかった。
 台詞力では、自分の隣の席で観劇していたU氏は、イノバーバスを演じた増留俊樹の、静かな口調の中にも心に染み入るものがあると感動されていたのも特筆に値する。
 出演者のほとんどを長年観てきているだけに、今回久し振りに参加したメンバーと出会えることになったことも嬉しさの一つであった。なかでも、大学院でシェイクスピアのソネットを専門にした井上寛斗は講談師への道へと進み、もう彼の舞台は観ることが出来ないと残念に思っていたところへの今回の出演は嬉しく思った。
 冒頭と幕場の要所要所で佐瀬恵子が演じるナレーターが物語の概況を語る構成も、日英語劇ということもあってこの劇の筋を知らない観客にとっては理解の助けになるだけでなく、料理に譬えれば「箸休み」的な役割を果たして、緊張感をリラックスさせてくれるものがあり、非常に良い趣向であったと思う。
 コロナの影響もあって上演当日になってはじめて出演者全員が顔合わせすることができたということであるが、それにもかかわらず、全員の息があっての朗読、演技はさすがであると、ただただ感銘。
 そのコロナの影響から、10年でシェイクスピア全作品上演するという当初の計画も崩れてしまったが、これからも長い道のりの中で参加者のメンバーも入れ替わりを余儀なくされてくることと思うが、それもまた予期せぬ楽しみの一つとして、一ファンとして最後まで観劇の伴走をしていきたい。
 上演時間の関係もあって、今回は共催の横浜山手読書会代表の奥浜那月氏の挨拶も省略され、SAYNK代表の瀬沼達也の挨拶も数分で済ませ、すぐに上演となり、上演時間はいつもより長く、途中10分間の休憩をはさんで、2時間30分であった。

 

演出・構成/瀬沼達也、音響/飯田綾乃
シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会(SAYNK)主催/横浜山手読書会共催
3月12日(日)13時30分開演、横浜人形の家「あかいくつ劇場」、入場無料、自由席


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