2023年観劇日記
 
   Tama + project公演 『H/ash、アッシュ』            No. 2023-005

 2015年から始めた『Hamlets/ハムレッツ』シリーズを昨年のver. 10で終了し、今年から新たに『H/ash』シリーズを立ち上げる。その時以来、毎年3・11の日に公演が続けられてきているが、この日も開演時間前の14時46分に出演者全員と観客とが1分間の黙祷を捧げた後、舞台の幕が開けられた。
 舞台中央に据えられた椅子に腰かけた丹下一の周囲を、6人の女性が幾度も、幾度も、繰り返し、繰り返し、ぐるぐると回る。彼女らの衣装は、上が白のシャツと黒のシャツを着た者が半数ずつに分かれ、白のシャツの下には黒のパンツ、黒のパンツの下には白のパンツをはいた者が二組ずつ、そして残りの二人は上下ともに黒色の衣装姿。それは、どこかオセロゲームを思わせるものがあった。
 しばしの間、ぐるぐると回る動作が続いた後、即興のダンス。それはダンスというより、緩急を織り交ぜた所作というべきものであった。
 台詞は、椅子に座ったままの丹下一のリア王の国譲りの場面の台詞から始まる。左右に控えた女性が、ゴネリル、リーガンの台詞。コーディリアの台詞は舞台下手の壁際の椅子に腰かけた女性が「コーディリアは何と言おう」と発した後、丹下一の背後にいる女性二人がコーラスのようにコーディリアの台詞を繰り返す。
 そして再び、舞踊の所作。その合間に、アッシュ、ガッシュ、キャッシュ、ダッシュ、ハッシュ、などの声が発せられていく、ashの変容が繰り返される。
 『リア王』に続くシェイクスピアの台詞は、今回この舞台のために江戸馨がはじめて訳した『マクベス』の第一場第五幕のマクベス夫人の台詞。この場面では、マクベスにあたる照明によってマクベスの顔色が蒼白い鉛色に見えたことと、彼の両耳の部分がルビーのように赤く輝いていたのがとても印象的であった。丹下一の出番はここまでで、あとはすべて6人の女優たちによって演じられる。
 『ハムレット』の台詞では、'To be, or not to be'で始まり、この部分だけは英語で後は日本語で続けられる。『ハムレット』の場面では、ほかに第五幕第一場の「墓堀人」の場などが演じられる。
 後半部では『Hamlets/ハムレッツ』でもおなじみであった靴を放り投げる場面が今回も幾度となく繰り返された。
 最後に再び丹下一が登場し、椅子に腰かけ、吉田優子の短歌を口ずさんで、暗転。その最後の短歌は終演直後までしっかりと覚えていたのだが、会場を出たとたんに忘れまった。下の句に「人という漢字のうらめしさよ」を含んでいたように記憶している。吉田優子の短歌も『Hamlets/ハムレッツ』シリーズ以来、この劇に欠かせないものとなっている。
 このシリーズでは欠かすことのできないヒグマ春夫の抽象的でシュールな映像と、八木沢淳の照明が、この舞台でも出演者と同等以上の重要性を担っていた。
 黙祷の時間を入れてもわずか1時間の上演時間であったが、緊張感に満ちた、ストイックな舞台であった。
 脈絡があるようでないようなこの劇に、下手な解釈づけなど必要なく、舞台のこの緊張感を味わうだけがすべてといってもよい舞台であった。
 出演者は、丹下一のほか、辻本みず希、有賀瑛里、橋本和歌子、国分理菜、吉室香澄、上田獏。

 

テキスト/『リア王』『マクベス』『ハムレット』(江戸馨訳) 、
吉田優子歌集『ヨコハマ横浜』他
構成演出/丹下一、映像/ヒグマ春夫、照明/八木沢淳
3月11日(土)14時46分開演、
成城学園前・アトリエ第Q芸術1階ホール、チケット:3500円


>> 目次へ