2023年観劇日記
 
   演劇集団円公演 『ペリクリーズ』                No. 2023-004

 演出が「女体シェイクスピア」シリーズの"柿喰う客"の中屋敷法仁ということで、何となく不安があった。
 あまり嬉しくないが、その予感が的中してしまった。
 その中屋敷法仁が、B4サイズを二つ折りにした大きなパンフレットの寄稿文に、<改めて『ペリクリーズ』を読み直し、強いイメージを持ったのは「流動」の芝居だということ>と記しているが、この舞台の演出ではその「流動」のイメージが打ち出されて魅力的な舞台であったと思う。その意味ではこの舞台は成功していたと言えるのだが、劇そのものとしては彼の「女体シェイクスピア」シリーズと同じく自分の感性には受け入れ難く、不満の多い舞台であった。
 舞台に好感を覚えなかったのは、ガワ―を演じる藤田宗久の台詞に人を惹きつける力がなかったことも大きいが、主演のペリクリーズを演じる石原由宇が一部でがなり立てるような台詞回しのあったことや、サイモニディーズを演じる玉置裕也は別に女郎屋のボールトも演じるせいか、王として品位のない台詞回しが自分には興ざめであった。
 登場人物はブルーの現代衣装で海を「流動」する舞台を表象し、椅子やテーブルを自在に動かしての「流動」を表出する所作や、ダンス、音楽の挿入などを多用し、躍動的な舞台であった。それらは全体としてプラス評価ができるのだが、反面、自分にとってそれらがノイズとしか感じられず、頭痛をすら感じてしまった。
 クリオンを演じた上杉陽一やガワ―を演じた藤田宗久を除けば若手中心の舞台で、自分がかつて知っていた頃の"円"とは様変わりして違う劇団のような感じであった。極論を言えば、演出に"柿喰う客"の中屋敷法仁を持ってきたこと自体が自分にとっては疑問でしかなかった。彼の「女体シェイクスピア・シリーズ」に対するアレルギー反応みたいなものだろう。
 出演は、主たる役として、ガワ―の藤田宗久、ペリクリーズの石原由宇、ヘリケイナスの石井英明、アンタイオカスの友岡靖雅、サイモニディーズの玉置裕也、サイサの新上貴美、ライシマカスの清田智彦、マリーナの古賀ありさ、女郎屋の女将の杉浦慶子、クリオンの上杉陽一、ダイオナイザの磯西真喜、セリモンの相馬一貴、総勢13名。
 上演時間は、途中15分間の休憩をはさんで、2時間20分。

 

翻訳/安西徹雄、演出/中屋敷法仁(柿喰う客)、
美術/乗峯雅寛、照明/佐々木真喜子、衣装/西原梨恵
3月5日(日)14時開演、両国・シアターX、チケット:5500円、座席:C列10番

【後日記】
 この観劇日記を公表するつもりはなかった。その理由は、自分の感性にそぐわなかったネガティヴな感想は他人が読んで決して気持ちの良いものではないと思ったからだった。しかし、この劇に対する一般の評価は、「笑い」もあって、特に、若い観客層には人気であったようだ。そのことを知って、むしろ感性の古い自分の感想として公表することにした。


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