2023年観劇日記
 
   早稲田シェイクスピア上演プロジェクト・リーディング公演 第6回
       シェイクスピア・シアターを体現した 『間違いの喜劇』 
   No. 2023-002

 早稲田大学のこの公演を知ったのは、今回演出を担当したシェイクスピア・シアター代表の高山健太氏からであった。1月公演の予定が出演者(関係者)のコロナ感染により中止延期されていたのが、今回無事に開催することができたのは幸いであった。
 今回がその第6回目ということであるが、このプロジェクトは、2016年12月にシェイクスピア没後400年を記念し、坪内逍遥のシェイクスピア研究の伝統を引き継ぎながら、シェイクスピアを読むだけでなく、戯曲を声に出して読み、舞台として作り上げるリーディングによって、座学にとどまらない実践を通して新たな感動を味わうことを目指したものであるという。
 開演にあたってこのプロジェクト公演の開催責任者である冬木文学部教授が、この学生たちの公演は、これまでも毎回プロの演出家の指導を受けて行ってきたと挨拶の中で語られたが、それが今回たまたまシェイクスピア・シアターの高山健太氏であることで、彼の案内でこの上演の事を始めて知ったという次第である。
 冬木教授の挨拶の言葉にもあったが、このリーディング公演は、単なる朗読ではなく、台本は持っているが演技を伴った朗読劇であった。
 その発声法といい、所作といい、細部にわたってシェイクスピア・シアターの舞台を観ているようであった。
 開幕時と終わりの音楽も、シェイクスピア・シアターの上演で用いられてきた懐かしいもので、もうそこからシェイクスピア・シアターワールドに引き込まれていった。
 開幕早々の舞台には、下手の舞台にはベンチに腰掛けたカップル、そして舞台上に三々五々人々が行き交い、エフェサスの街中の雰囲気を醸し出す。公爵のソライナスとイージオンの場が終わると、下手にいたカップルがアンティフォラス弟とドローミオ弟として立ち上がり、そこから舞台が展開していく。
 この劇の面白みは、一にも二にもドローミオ兄弟の演技にかかってくると思うが、この二人を演じた三宅美和子(弟役)と青木みなみ(兄役)の演技とコンビネーションが実にすばらしく、大いに楽しませてくれた。もちろん、その受け手であるアンティフォラス兄弟役(西川貴章と大西直輝)、周囲の役も重要であることは言うまでもない。
 その周囲の人間では、女中のリュースと娼婦を演じた高山千香葉の台詞力と演技力は見せる(魅せる)ものがあった。それぞれの出演者の衣装の工夫は、簡素な中でも全般的によくできていたが、なかでもこの二役を演じた高山の衣装の変化と華やかさは、小道具の扇の使い方と合わせて見応えを感じさせた。
 演出の効果という点に於いては、この公演がシェイクスピア・シアター研修科(というものがあるとして)の卒業公演を感じさせるものがあり、親しみを覚えさせるものがあった。そのことから、演出者が変わることによって彼らの演技や台詞の発声がどのように変化するかも興味ある所である。
 出演者のそれぞれ全員が楽しく演じ、観客を大いに楽しませてくれた舞台であった。
 出演者は、全部で12名。観客の数は、自分はいつも最前列で観るので確かな数字は言えないが、4,50名程度であったろうか。開演前に自分の後ろの席の方が声をかけられてきて、お話を伺うとお孫さん(ルシアーナ役の柴田清香さん)が出演しているということであった。
 上演時間は、1時間55分。

 

訳/小田島雄志、演出/高山健太(シェイクスピア・シアター代表)
主催/早稲田大学国際教養学部、開催責任者/冬木ひろみ(早稲田大学文学部教授)
2月4日(土)14時開演、大隈小講堂、入場無料(要予約)


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