2022年観劇日記
 
  劇団フラットステージ、gaku-GAY-kai 2022公演 『贋作・テンペスト』
   ―女装ゆえに国を追われたプロスペロー、復讐と許しの物語り―     
 No. 2022-027

 年末恒例のお楽しみの一つになったフラットステージのシェイクスピア贋作シリーズ。
 今回は贋作の奇抜な発送とアイデアを笑って楽しませてもらった。
 1時間10分足らずの上演時間の中で、シェイクスピアのエキスを凝縮して本作と同じように感じさせながらも、本作との違う贋作としての面白みを薬味のように散りばめているのを楽しんだ。
 まず発想の面白さ、奇抜さ。場所はいつものように原作とは置き換えられて、ミラノ公国は新宿公国に、ナポリは渋谷公国、そして渋谷王の姫が嫁いだ先はアフリカではなく、最果ての地とされる世田谷国。新宿の大公プロスペローは、魔術と女装に凝って弟のアントーニオに追放され、たどり着いた孤島では娘ミランダの母親となっている。
 娘を嫁がしての帰路の渋谷王アロンゾ―の一行がその孤島の近くを航海しているところを好機に、嵐を起してプロスペローの復讐が始まる。その嵐に沈む船の光景を見て悲しむミランダにプロスペローはその身の上話を語る。新宿の大公であったことを聞いてミランダはプロスペローが実は父親であったことを知らされる。が、驚きは更に超えて、ミランダを産んだのもプロスペローで、彼=彼女は、両性具有であることを明かす。
 更なる驚きがまだ続く。渋谷王の息子ファーディナンドとミランダが結ばれるとき、プロスペローが驚くべきことをファーディナンドに告げる。娘ミランダは、実は男の子であるという。新宿の大公の後継ぎとして男の子を望んで生まれたのがミランダであるが、男物の産着と女物の産着を選ばせたところ、ミランダは躊躇なく女の子のものを選び、それからは女の子として育ったのだと言う。ファーディナンドはそんなことにこだわらず、彼女=彼と結婚するという。さらなる隠れた事実として、世田谷の王国に嫁いだ姫の結婚相手は実は女性で二人は同性婚であったということも明らかにされる。
 それから、これはたぶんだれもが疑問に思うことであろうが、ファーディナンドがプロスペローに、魔法が使えるのになぜむざむざと追放されたのかという問いに、プロスペローは一瞬とまどった表情を浮かべ、すぐに舟を漕ぐ格好をして、自分を裏切るようなところに未練はなかったと、その理由を述べる。また、プロスペローの魔法の杖は少女漫画の魔法使いサリーの銀の杖のようなかわいらしい杖であるのも、プロスペローを演じるフランス人形のような目ぱちくりの表情や、衣装と合わせて漫画チックで、舞台全体をプロスペローを演じるエスムラルダ一人で食ってしまう感じであった。
 最後は、自分を裏切った弟を含め全員を許し、プロスペローの復讐が終わり、彼=彼女は魔法を捨て、その孤島に残ることを決意する。追放されたプロスペローを陰ながら助けた渋谷王の顧問官ゴンザーローもともに残ることを願い、晴れて自由の身となった妖精エアリエルも必要な時にはお助けしますと誓い、プロスペローはキャリバンに対しては同じ島の住人として共に統治していこうと和解する。そして、この孤島が、いつかは新宿や渋谷の国と陸続きとなって「新宿二丁目」となることを祈願して、この舞台の幕が閉じられる。
ゲイの集団ならではの説得力と発想力、想像力=創造力が産んだ産物。
 出演は、プロスペローにエスムラルダ、ミランダにモイラ、この二人の女装がこの劇の最大のハイライト、他に、ファーディナンドに井出麻渡、エアリエルに加村啓、キャリバンにオバマ、渋谷王アロンゾ―に水月アキラ、アントーニオに関根信一など、総勢11名。

 

脚本・演出/関根信一
12月29日(木)14時開演、新宿シアター・ミラクル、チケット:2000円、座席:A列6番


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