2022年観劇日記
 
   獣の仕業・第14回公演 『マクベス』              No. 2022-021

― キャッチコピーは、「魔術的身体で、運命と闘う」 ―

 「獣の仕業」は、平日は会社勤めの社会人劇団とあり、2008年の明治学院大学演劇研究部の卒業記念公演で『春に就いて』を上演したのがきっかけで、その年に団員7名で結成され、「物語と舞踏を組み合わせた舞台表現、音楽的な発話と舞踏的身体を採用し等身大の表現を超えて心に触れる作品を追及」し、2012年には「私達は日常から出発します。こうあるべきを超えて、もっと自由になれるように祈る」と宣言している。シェイクスピア劇の上演は坪内逍遥訳で、12年9月の第6回公演で『オセロー』、14年7月の第8回公演で『空騒ぎ』、同年10月の第9回公演で『ヴェニスの商人』、今回の『マクベス』で4作目となる。
 公演の舞台となる会場は、民家の中の2階建てマンションの1階の一角。真っ黒な床面で20畳ほどの広さがある平舞台の中心には、大きな八角形が線引きされ、その中に正方形と長方形の枠、その中心部に四角形の白い線引きがされていて、「魔界」を表象するかのようである。
 「獣の仕業」の『マクベス』の登場人物は、マクベス、マクベス夫人、バンクォー、ダンカン、マクダフが基本的に一人一役、3人の魔女がそれぞれバンクォーの息子のフリーアンス、ダンカンの息子のマルコム、マクベスの家臣シートンを演じ、その他の登場人物である医師、刺客たち、侍女、スコットランドの貴族などは随時、この劇の登場人物を演じる8人の出演者によって演じられる。
 魔女が他の登場人物を演じることによって、その人物の魔術的運命を感じさせるものがある。
 ダンカンにマクベスの勝利を報告するロスの領主に代わって、魔女が演じるバンクォーの息子フリーアンスがその役を務めるだけでなく、イングランドのマルコムのもとに向かうロスの役もこのフリーアンスが務める。ロスについては演出によって「二重スパイ」のような役割を持たせられることがあるだけに、このロス=フリーアンスにすることによって、ある種の予兆性を感じさせられることになる。
 マクベスの祝宴の席に登場する亡霊には、バンクォーだけでなく、ダンカンの亡霊(影)までが現れる。
 マクベスを倒した後、マクダフがマルコムに対して「国王万歳」と叫んだ後、その後を続けて魔女が「国王万歳」の唱和を促す。そして、この物語の終わりに、一同が舞台上に横並びに並んで、「明日が来たり、明日が来たり、また明日が来たり又去って…やがてもう噂もされなくなる惨めな俳優だ、白痴(ばか)が話す話だ、騒ぎも意気込みも偉いが、たわいもないものだ」という台詞を、繰り返し、繰り返し唱和し、やがて突然、暗転。
 キャッチコピーの「魔術的身体で、運命と闘う」を体現する舞踏的所作の演技が、自分にとっては、今一つ共感を呼び起こさなかっただけでなく、時に台詞の語彙がはっきりしない、声だけが大きな発声がノイズとして耳にざわついて、却って平板に聞えたのが惜しむべきことであったが、そのひたすらな、一途な演技には称賛を贈りたい。
 上演時間は、休憩なしの95分。

 

翻訳/坪内逍遥、脚色・演出/立夏
10月23日(日)13時開演、王子神谷、シアター・バビロンの流れのほとりにて
脚本付きチケット:3000円、全席自由


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