2022年観劇日記
 
   新地球座公演・荒井良雄娑翁劇場第32回
     『ヘンリー四世・第一部』、ヘンリー四世と二人のハリー      
 No. 2022-018

 今回の演目は本来昨年に英国史劇シリーズの一環として開催する予定であったが、昨年はコロナ感染の影響で一度も開催できず、今回初めてこの『ヘンリー四世・第一部』を7月に開催予定であった。しかし、、コロナ感染の影響で中止、延期となって今回の開催となったものである。
 この『ヘンリー四世』は、2019年7月の第24回で第一部と二部を合わせて「親子の断絶と和解」と題して一度上演していたが、今回はそれを一部、二部を別々に上演することになった。
 『ヘンリー四世』といえば、フォルスタッフが真っ先に頭に浮かぶが、それだと前回と同じような展開となるので、第一部では思い切ってフォルスタッフを抜いて、立て続けに起こる内乱の悩みに加えて、息子のハル王子の不品行に苦悩するタイトルロールのヘンリー四世を前面に立て、王と、ハル王子とホットスパーという二人のハリーの3人を軸にして展開させることにした。
 英国史劇では多くの人物が登場するが、新地球座は3人のメンバーでしかなく、また会場の都合もあって客演を入れても5,6名の出演者が限度なので、登場人物も絞った。それでも筋の展開上8人の登場人物となり、一人二役は最低限必要となった。今回の演出では、タイトルロールのヘンリー四世とオーエン・グレンダワーを高橋正彦、ハル王子とウェストモーアランド伯爵、それにリチャード・ヴァーノンを客演の菊地真之、ヘンリー・パーシーを久野壱弘、そしてウスター伯トマス・パーシーとマーチ伯エドマンド・モーチマーを倉橋秀美が演じた。
 第一部は、ハル王子とホットスパーの一騎打ちで王子が勝利した後、最後は再び他の方面への戦場への進軍で終わるのだが、ここで演出の高橋正彦は、台本には入れてなかった第二部の冒頭部である「序」(プロローグ)の「流言」(噂)の台詞を出演者4人に入れ替わり語らせ、次回、第二部の予告編として加えた。この「流言」の台詞を加えたことで、舞台の最後がしっかりとしまるという大いなる効果を感じた。
 英国史劇は日本人にはなじみがないということもあっていつも配布している「解説」では、今回の上演の内容の概要を場面ごとに説明した解説とした。その概要を示すと、
 <第1幕では第1場と第3場の王宮内を舞台にする。
 第1場ではリチャード二世の後王位を継承したもののヘンリー四世は常に反乱と陰謀に日々悩まされ、その内憂を外に向けるべく聖地奪回の遠征を計画していたが、スコットランド軍のイングランドへの侵攻、西ではウェールズの不穏な動きの知らせが入り、聖地遠征のための会議は取りやめとなり、この内憂の処置のための会議へと変えざるをえなくなる。
 第3場の王宮での会議で、ホットスパーは捕虜引き渡し条件としてマーチ伯モーチマーをウェールズのグレンダワーから釈放させることを求める。
 第2幕第3場は、ホットスパーの居城ウァークヲースが舞台で、反乱軍を募るホットスパーの手紙の返事がいずれもかんばしくなく、彼はヨーク卿とウェールズのグレンダワーだけでも十分だとして王との戦いの覚悟を決める。
 第3幕第1場は、ウェールズ国でグレンダワーとモーチマーとホットスパーの三者会談となり、ホットスパーとグレンダワーは互いに反目しあって衝突するが、モーチマーの仲介で何とか収まり約定が結ばれる。
 第3幕第2場は、王と放蕩息子のハル王子の和解の場で、王子は改心の意を王に示し、ホットスパーを倒すことでこれまでの不名誉を晴らす決意をする。
 第4幕はいよいよ王と反乱軍の戦いの場で、場所はその決戦場となるシュリューズベリー。
 第5幕1場は、シュリューズベリーの王の陣営。戦闘を前にして王が反乱軍の首謀者の一人ウスター伯に和平をもちかけるが、ウスター伯は王の自分達への理不尽な処遇に対して不満を述べるにとどまり、和平には至らない。第2場ではウスター伯は甥のホットスパーに王の和平の申し入れについては何も知らせず、戦うしかないと告げ、ホットスパーは覚悟を決めて立派に戦うことを改めて決意する。4場で、ホットスパーとハル王子の一騎打ちが繰り広げられ、王子の勝利で戦いが終結する。第5場は、終戦処理としてウスター伯の処刑の決定と、残る反乱軍制圧のために、王とハル王子はウェールズに向かい、王子の弟ランカスター伯ジョンはヨークへと向かう。>
 今回の上演時間は、約40分。

 

翻訳/坪内逍遥、監修/荒井良雄、台本構成/高木登、演出/高橋正彦
9月28日(水)18時30分開演、喫茶ヴィオロン


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