2022年観劇日記
 
   イエローヘルメッツ第1回公演 『ヴェニスの商人』         No. 2022-016

山崎清介のシェイクスピアワールド、再び (注1)

 2019年に幕を閉じた「子供のためのシェイクスピア」が、クラッピングと黒いソフト帽に黒い衣装の様式を保ちつつ、今度は「大人も子供も楽しめる」イエローヘルメッツとして帰ってきた。
 黒い帽子で黒い衣装の人物たちは、コーラス(コロス)の役割を果たしつつ、その黒い衣装を脱いで次なる登場人物へと脱皮するお馴染みのスタイルである。
 出演者も「子供のためのシェイクスピア」時代からお馴染みの俳優がほとんどだが、今回、初演から長く出演していてしばらく出ていなかった伊沢磨紀がカムバックしてシャイロックを演じたのも嬉しく、懐かしくもあった。
 山崎清介の演出は、シェイクスピアの見どころをしっかりと押さえ、分かりやすく、楽しめるものにしているので、子供にも面白く楽しめるだけでなく、大人も大いに楽しめる。
 これは一般論としての意見であるが、『ヴェニスの商人』を見て感じるのはポーシャの台詞に人種差別的なものが多く含まれていることである。それが今回、際立って耳に響いて聞えた。ポーシャへの求婚者、モロッコの大公の肌の色への偏見の台詞もその一つであった。
 併しながら別の見方からすれば、結婚が自分の意志で決められなかったのが当たり前の時代にあって、自分の意思を持っていた女性としてポーシャを見れば別の考え方も出てくる。
 『ヴェニスの商人』は、ユダヤ人シャイロックを含めて、人種問題、宗教問題など現代では非常に問題になりそうな台詞が多く、そのことが近年の上演の制約ともなっているが、そのことを意識させられることが今回の上演においても多々感じられた。このことは、箱選びによるポーシャの結婚問題同様に、多面的問題提起としてさまざまな角度から論じることができるだろう。が、山崎清介の劇はそんな面倒なことを考えずに、それぞれの役者の演技を楽しんで観ることができる。
 近年の演出では最後の場面にひとひねりもふたひねりも工夫が凝らされるのが特徴となっているが、この演出にもなされている。指輪騒動も終わって大円団となって一同退場していき、全員が退場した後、うすぼんやりとした照明の中にシャイロックがテーブルを前にしてうつむいた表情で座っているのが浮かび上がる。シャイロックは、やおら立ちあがって、ゆっくりと舞台の前面へと進み出てくるが、終始無言のままである。その無言の沈黙のまま、彼(彼女、伊沢磨紀)を三角形の頂点にして、黒い帽子に黒い衣装の者たちがその後ろに並び立ち、一同、ゆっくりと上を見上げて、暗転。シャイロックに余分な所作、台詞がないまま終わるだけにかえって、その判断が観客に委ねられることで印象的な終わり方となっていた。
 出演は、シャイロックの伊沢磨紀のほか、バッサーニオのチョウヨンホ、アントーニオに戸谷昌弘、グラシアーノに若松力、ロレンゾーに谷畑聡、ポーシャに渡邊清楓、ネリッサに星初音、ジェシカに鷹野梨恵子、公爵に山崎清介、ラーンスロット・ゴボーは人形が務めた。モロッコの大公とアラゴンの大公は変装がうまくて誰が演じたか気づかなかったが、多分、谷畑聡ではなかったかと思う。
 上演時間は、休憩なしで2時間。
(注1)は、チラシのキャッチコピーからのもの。

 

小田島雄志翻訳による脚本・演出/山崎清介
8月27日(土)14時開演、すみだパークシアター倉、チケット:6000円、座席:G列14番


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