2022年観劇日記
 
   シアターRAKU 創立25周年記念公演 『から騒ぎ』            No. 2022-011

 1997年、SPACE早稲田で始まった平均年齢48歳のシニア劇団、「楽塾」(現、シアターRAKU)が25周年を迎えるという。そのままであれば今は平均年齢73歳の筈だが、50代の新人が加わって平均年齢68歳だという。
 御多分に漏れず足掛け3年間にわたるコロナ禍の苦しい状況下での公演だが、それにもかかわらず、年1回の公演を続けての25周年は貴重である。
 今回、千穐楽を除いて連日昼夜2公演で、合計7公演のハードスケジュールの初日を観劇した。
 観客のほとんどが出演者と同じく平均年齢70歳を超え、その8割以上が女性であった。そしてそのほとんどが出演者の関係者(チケット受け取りの際、代金が一般より300円安く3500円の支払いをしていたことでそれと分かる)であった。
 流山児祥が主宰するシアターRAKUはシェイクスピアや寺山修司などの作品を時代劇ミュージカルにアレンジしての楽しい「お芝居」で、これまで、シェイクスピア作品では、『夏の夜の夢』と『十二夜』は何度か上演されてきたが、今回の『から騒ぎ』ははじめてである。シェイクスピアの喜劇はミュージカルが似合う。この『から騒ぎ』も、「歌って、踊って、恋をする」楽しい劇となっていた。
 メッシーナのレオナート家は「飯奈(めしな)家」に、アラゴンは「荒越(あらごえ)国」に変えられ、登場人物もレオナートが蓮左衛門、弟のアントーニオが安右衛門、ヒアローが村雨、ビアトリスが松風、ドン・ペドロが「お館さま、頼国」、弟のドン・ジョンが「高国」、ベネディックが「弁三郎」、クローディオが「九郎次郎」というふうに変えられている。
 劇中歌で歌われる「目」の歌は示唆に富んでいる。目が二つあるのには意味があり、右の目では「オモテ」を見、左の目では「ウラ」を見る。右の目では「真実」を見、左の目では「嘘」を見る。シェイクスピアの「見かけ」と「真実」の違いを表象化する一方、大切なことは「心の目」で見ることだと歌い上げる。そして、この芝居も『夏の夜の夢』のシーシアス公爵のように、「心の目」で見ることが大切だと教えてくれる。
 弟の高国が逃亡中に捕らえられ、飯奈に護送されてくることが告げられる場面は、原作ではベネディックがこの知らせを聞いてこの劇最後の台詞を語るのだが、この劇ではお館様の頼国が、「戦争もやっと終わって、殺し合いも終わった。今度の事では死者は一人もいなかった」と言って、弟の処分についても寛大な処置で済ます台詞で終わらせ、あとは大円団の歌と踊りとなって幕となる。
 今、ロシアによるウクライナ侵攻で多くの死者が出ている、その背景を鑑みるとき、この最後の台詞に流山児祥の心、気持ちを感じ取ることができる気がした。現状の痛ましい光景を連日映像で見るたびに、ほんとうに、そんな「赦し」ができることができたなら、と願わずにはおられない、意味深い台詞であった。
 出演者は、にぎやかに、総勢20名。
 上演時間は、休憩なしで1時間40分。
 次は、30周年に向かって頑張ってほしい!!

 

翻訳/松岡和子、脚色・演出/流山児祥、振付/北村真実、作曲/多良間通朗
6月30日(木)14時開演、恵比寿・シアター・アルファ東京、
チケット:3800円、座席:J列8番


>> 目次へ