<「パンデミックの時だからこそシェイクスピアのロマンス劇を届けたい」との祈りを込めて上演します>とチラシに記載されているが、開演にあたっての挨拶においても、SAYNK主宰者である瀬沼達也は、一昨年の初めから続いているコロナ禍、そして今年2月から続いているロシアによるウクライナ侵攻、さらにはミャンマーの軍事政権による民衆の悲劇に言及し、シェイクスピアを今上演する意義と、こういう時だからこそシェイクスピアのロマンス劇をと、昨年の『冬物語』に始まって、今年の『ペリクリーズ』、そして今回の『テンペスト』を上演する意義を語られた。
ロマンス劇の底流に流れているテーマは、「死と再生」、「罪と赦し」であり、『テンペスト』はそのロマンス劇の中でも瀬沼達也にとって思い入れの強い作品の一つである。
それは今回のチラシに添えた資料に、2005年の関東学院大学シェイクスピア英語劇のプログラムに寄せた原稿『「テンペスト(大嵐)」の意味を求めて』と、2016年の原稿『なぜ今「テンペスト」か?』を再録していることからも強く伺われる。
敬虔なクリスチャンでもある瀬沼達也にとっては「罪と赦し」は彼自身にとっても心のテーマであろうかと思われる。
今回の公演は、その思いを「祈り」に込めたものでもある。
10年でシェイクスピア全作品の上演を目標に2017年から始まったSAYNKの公演も、一昨年からのコロナ禍で中断を余儀なくされ、さらには中心メンバーの一人が病に倒れ、メンバーの確保も思い通りにならず、上演にあたって稽古も十分にできない中での公演はさぞかし大変なことであったろうと想像される。
今回の出演者はわずか4名であったが、そのメンバーをあらかじめ知った時には、よく知っている出演者たちだけに少人数ながらも別の期待感もあった。
劇中15人の登場人物を4人で演じるための工夫も見どころ、聴きどころであった。
主な役どころでは、いつものように瀬沼達也がシェイクスピアその人を演じつつ、プロスペローを英語で、キャリバンを日本語で演じ分け、劇団AUNからの友情出演の林佳世子がミランダと空気の精エアリエルをショールを用いて演じ分け、飯田綾乃は同じ場面で登場するゴンザーローとセバスチャンを日本語と英語で使い分け、ファーディナンドを中心に演じた関谷啓子は終始英語での演技であるが、アロンゾ―を演じるときはファーディナンドとの人物分けのために日本語で語った。
林佳世子は終始日本語での演技であったが、エアリエルが歌う場面では英語での美しい歌唱力に魅惑された。
歌では、関谷啓子が演じた酔っぱらったステファノ―が歌うようにして登場する場面での彼女の美声にも聞きほれた。
4人の実力者たちの持ち味を十分に感じさせてくれた2時間であった。
構成・演出/瀬沼達也
シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会主催・横浜山手読書会 共催
6月19日(日)14時開演、横浜人形の家「あかいくつ劇場」
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