2022年観劇日記
 
   シアター代官山プロデュース公演 『フォーティンブラス』     No. 2022-007

 フォーティンブラスを題名(あるいは主役)とした作品はこれまでに、2001年に横内謙介作で劇団扉座による劇団創立20周年記念公演と、2002年にリー・ブレッシング作、青木豪翻訳・演出でスカイスケープ主催による公演、そして2018年、MSPインディーズ・シェイクスピアキャラバン公演による横内謙介作・井上優脚色、新井ひかる演出による上演と、三度ほど観ている。が、その内容は観劇日記を読み返さないとまったくと言ってよい程覚えていない。その観劇日記を読み返さずに観劇したので、今回の上演はまったく初めて見る感じであった。
 その第一印象は、この劇は「喜劇」であると感じたことである。それは主演のフォーティンブラスの亡霊を演じた栗田芳宏の演技に負うところ大であった。
その栗田芳宏の挨拶文に「作品のテーマは『演劇』とは、『演技』とは」であったが、まさにこの劇を喜劇に感じさせたのは彼の「演技」に負うものが大であったと感じた。
 横内謙介の『フォーティンブラス』は、1990年に劇団扉座の前身"善人会議"で初演され、95年にスマイルバージョンとして再演され、2001年のそれは前2作を前面改定されての再演であったという。
 栗田芳宏演出による今回の上演は、扉座の2001年の公演とも構成が異なっていた。
 フォーティンブラスの亡霊が最初に登場して、『マクベス』のトゥモロースピーチ、「明日、明日、・・・」の台詞を語るところから始まり、その台詞はこの劇の終盤で、フォーティンブラスの亡霊岸川和春と同じく、主役を生涯演じることのなかった古参女優の松村玉代によって語られ、一種の円環構造を感じさせられたが、舞台はさらに続いた。
 フォーティンブラスの亡霊はハムレットへの復讐を息子のフォーティンブラスに託すが、それは、亡霊には自覚されていない(ように見える)主役になれなかったことから、永遠のヒーローとも言えるハムレットに対する嫉妬が産み出した怨念であるとも言えた。フォーティンブラスの亡霊はその「怨念」が産み出したものである。
 玉代の「あなたの出番はもう終ったの」という説得に、亡霊は我を喪失して「おい誰か、誰か教えてくれないか、この私が誰なのか?」とリア王の台詞を語る。岸川は古参女優の玉代とは、二人で誰もいない開演前の舞台の上で、『ハムレット』の台詞や、『リア王』の台詞、その他多くの作品の台詞を語り合った仲であった。
 亡霊は実の息子にではなく、『ハムレット』でフォーティンブラスを演じる羽沢武年を息子としてハムレットへの復讐を誓わせ、劇中の役になり切ってしまっているところから、亡霊の的が外れているズレを演じる栗田の演技が喜劇性を生み出している。
 最後は、舞台奥に若返った玉代が現れ、亡霊に「見事でしたよ、あなた・・・また一つ、役を演じ切って見せてくれましたね」という言葉とともに亡霊の岸川を招きよせ、二人は手を取り合う。そのとき、一人の若い女優が慌てて駆け込んで来て「玉代さんが、楽屋で死んでいる」と告げると一同は一瞬、沈黙となり、亡霊と玉代は静かに闇の中に消えていき、幕となる。
 「演劇は『知る』ものであり、『学ぶ』ものです。『感じる』ものであり、『味わう』ものです。そして何よりも『楽しむ』ものです」は、同じく栗田芳宏の挨拶文にあるもので、自分の感想もすべてはこの言葉につきた。
 変則ダブルキャストで、自分が観劇した「赤組」の出演者は、主演の栗田芳宏以外に、劇中劇ハムレットを演じる落ち目の大スター鈴木正美に小林充、オフィーリア役のタレント刈谷ひろみに近藤美鈴、墓堀り役の道化の田之倉信に山口泰央、フォーティンブラス役の羽沢武年に田渕法明、亡霊の岸川和春の息子でオズリックを演じる和馬に孝明、玉代に永野裕里恵など、その他大勢。
 上演時間は休憩なしで、1時間50分。

 

作/横内謙介、演出/栗田芳宏
4月10日(日)11時開演、シアター代官山、チケット:4500円、座席:C列14番


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