2022年観劇日記
 
   シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会(SAYNK) 第13回
   日英語朗読劇 『ペリクリーズ』 ~ Pericles, Prince of Tyre ~ 
 No. 2022-006

 新型コロナウィルス感染の影響で昨年6月の『冬物語』以来となる公演。東京都をはじめ神奈川県を含め18都道府県が「まん延防止特別措置」のさなかで、薄氷を踏む思いの9か月ぶりの上演である。
 このコロナの影響で前回より第一部の講演が取りやめとなり、共催の横浜山手読書会の奥浜那月代表の挨拶の後すぐに上演開始となり、今回は1時間上演した後、コロナ対策の一環として10分間の休憩をとって2時間10分の上演であった。
 前回の『冬物語』に続いてロマンス劇『ペリクリーズ』を取り上げた理由について、「パンデミックで苦悩するわたしたちの多くが共感の持てる登場人物が複数登場し、かつ物語が悲劇的側面を持ちつつも最終的には感動をもって夢と希望を観客に与えることができ得る作品群だから」と主催者である瀬沼達也の「挨拶文」に掲げられている。
 時空を超えて1607年のロンドンからシェイクスピアが、まだ80%しか出来上がっていない新作『ペリクリーズ』を携えて横浜にやってきて、自らが主役のペリクリーズとガワ―の役を演じ、SAYNKのメンバーたちがその他の登場人物を演じるという趣向である。そのシェイクスピアにはSAYNK代表の瀬沼達也が演じる。
 近年、その風貌がますますそっくりになってきた瀬沼のシェイクスピアは、SAYNKを見続けている観客にはすでにおなじみの姿となっており、そのシェイクスピアが役を演じるという趣向は自然な形として受け入れられる。
 版本にもよるが『ペリクリーズ』は全体で2464行あり、そのうちガワ―の台詞は308行、ペリクリーズは609行あり、この2つの役だけで全体の3分の1を占める。それだけに今回の上演では主演の瀬沼達也が際立って目立つ舞台であったが、反面そのエネルギッシュなパワーあふれる熱演に周囲がかすんでしまう舞台でもあった。
 「熱演」と書いたが、この上演は「朗読劇」でありながらも、瀬沼の朗読は演技を含めたものであり、もはや「演読」をも超えたものであるといっても差し支えない。
 かすみがちな周囲であったが、ターサスの太守クリーオン、ペンタポリスの王サイモニディーズ、売春宿の亭主、後半部のヘリケイナスなど4役を務める一花徹は、その4つの役柄の変化を楽しんでいるかのように演じているのが注目された。特に、マスクに赤い唇を描いた売春宿の亭主の役は秀逸であった。
 日英語朗読劇となっているが、このところ日本語の比重が高くなってもっと聴いていたいという英語の朗読が、出演者全員の英語の台詞力のレベルが高いだけに、途中で寸断されるのが惜しまれた。なかでも、もっと聴いていたいと思ったタイーサやマリーナを演じた門田七花の英語の台詞が、瀬沼のパワーに押されるかのように細く聞えたのが残念であった。
 出演者は、他にダイオナイザやダイアナを演じた関谷啓子、売春宿のおかみやリコリダを演じた飯田綾乃、そして前半部のヘリケイナスや、リーオナイン、メイティリーナの太守ライシマカスなどを演じた細貝康太で、総勢6名である。特筆すべきは、音響が適切にして効果的に舞台を盛り上げてくれたことであった。
 今回は、感染対策の一環として出演者もマスクを常時つけたままの上演であったが、マスクの影響を感じさせないほどの発声であったのは、さすがだと感心した。
 10年でシェイクスピア全作品上演を目指すSAYNKであるが、このコロナの影響もあって6年目に入った今回で13作目と予定のペースから遅れ、道なお遠しであるが、一観客として共に伴走を続けていきたいと願っている。
 次回は同じくロマンス劇で、6月にシェイクスピア最後の作品と言われている『テンペスト』が予定されている。

 

演出・構成/瀬沼達也
シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会(SAYNK)主催、横浜山手読書会共催
3月19日(土)14時開演、横浜人形の家「あかいくつ劇場」


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