高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   ナショナルシアター・ライブ  
     サイモン・ゴドウィン監督 『ロミオとジュリエット』     
No. 2022-004

 ここにも新型コロナウィルスの影響が。
 今回の映画版『ロミオとジュリエット』は、もともとは2020年の春/夏シーズンにナショナルシアターのオリヴィエ劇場で上演される予定であったのが、新型コロナウィルスの影響で上演が中止となり、17日以上かけてバックステージで撮影されたテレビ映画版として制作されたものである。
 映画は、『ロミオとジュリエット』のリーディング、立ち稽古の稽古場風景から始まり、途中から映像版となり、最後は再び稽古場風景の場で終わる。
 主演のロミオとジュリエットを演じるジョシュ・オコナ―とジェシー・バークリーは30歳と31歳ということで、映像によるアップの撮影からは10代のフレッシュな恋を感じさせるには熟年すぎる印象がぬぐえない。
 ジュリエットが母親のキャピュレット夫人に呼ばれてパリスとの結婚話を持ち出される際に乳母が語るジュリエットが転んだ話も、13歳の少女にはふさわしくても実年齢にともなう落ち着いたジュリエットに対してはあまり似つかわしくないということもあってか、繰り返しの台詞の無い淡白な台詞で終わらせている。
 この映像版『ロミオとジュリエット』の一番の特徴は、タムシン・グレイグが演じるキャピュレット夫人がすべての主導権を握って、家長である夫のキャピュレットの台詞をすべて彼女が語り、強烈な母親を演じたことにあった。
 仮面舞踏会でティボルトを制するのも、ティボルトが殺された後パリスとの結婚の段取りを仕切るのも、すべてキャピュレット夫人である。
 女性優位はジュリエットにも言える。キャピュレット夫人からパリスとの結婚の話を出されても適当に答えていながら、ロミオと出会ってからは彼女がイニシアチブを取って、結婚の段取りまでロミオに指示し、ロミオは受け身で答えるだけである。
細かいところでは原作とは異なる演出が多々あった。その極めつけは、広場でマキューシオとティボルトが出会って戦う前、マキューシオとベンヴォーリオが抱擁し合って熱い接吻をしているところを立小便しているティボルトが見つめている場面であった。
 ロミオは薬屋から毒薬を買うのではなく、追放となったとき、ロレンス修道士の部屋で毒薬の入った瓶をこっそり盗み出し、最後はその毒をあおって死ぬのもその一つ。
 また、追放されたロミオにジュリエットが死んだことを伝えるのは、ロレンス修道士がマンチュアとの連絡係としてあらかじめ定めていたベンヴォーリオであった。
 始めの稽古場風景でプロローグのソネットを語るのはコロスではなくロレンス修道士。
最後を締めくくるのはピーター・ブルックの演出でハムレットを演じたエイドリアン・レスターが演じる公爵。
 台詞なしの映像だけの場面やアップの映像が多く、90分という短い上映時間の割には冗長で、長く感じられた。

 

監督/サイモン・ゴドウィン、脚本/エミリー・バーンズ、音楽/マイケル・ブルース
1月30日(日)、シネ・リーブル池袋、料金:3000円、プログラム:1100円

 

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