2022年観劇日記
 
   名取事務所公演 『I am …哀しみの女たち』             No. 2022-002

~ シェイクスピア4大悲劇 オペラ&演劇 ~

 今日1日限りの1回だけの公演。
 開演に先立って10分間ほど志村寿一のヴァイオリン演奏、そして開演前の「お願い事項」などのアナウンスの後、再び5分間ほどのヴァイオリン演奏の後、照明が落ちて開演となる。
 <哀しみの女たち、その1>は『オセロ』の「デズデモーナ」から始まる。
 田村麻子と田野聖子の二人が揃いの白い衣装で登場し、舞台上の木枠だけの回転扉(これはこの後の劇にもすべて活用される)を交互に潜り抜け、二人の姿はまるで合わせ鏡に映し出されたかのように見え、やがて田村麻子が退場し、田野聖子が演じるデズデモーナのモノローグが始まる。
 デズデモーナのモノローグではオセロとの出会いから死に至るまでのいきさつが語られるが、それは夢幻能の世界を思わせた(この舞台のヒロインたちは全員死んでしまうので、この劇すべてが夢幻能とも言えるだろう)。
 田野聖子のモノローグの合い間に演奏される江澤孝行のピアノの旋律に戦慄が走る思いであった。
 「私は彼を愛するために、そして死ぬために・・・生まれた。歌いましょう!歌いましょう!柳!柳!柳!」
 死を前にしてのデズデモーナの台詞に合わせて田村麻子のデズデモーナが登場し、二人は瞬時の間ともに舞台上にあるが、やがて田野聖子のデズデモーナが舞台下手へと退場し、田村麻子の無言の所作が続き、やがて彼女のオペラアリアが、「私は愛するために生まれ・・・彼は栄光のために生まれた」と謳われ、死を覚悟する「柳の唄」が美しくも悲しい旋律で奏でられ、原作にはない「アヴェ・マリア」の祈りの歌で最後の瞬間が迎えられる。
 <哀しみの女たち、その2>は、真っ赤な衣装の田野聖子が魔女の台詞から始める「マクベス夫人」。
 マクベス夫人は魔女の予言を信じ、マクベスのダンカン殺害から王位に就くまでは終始夫をリードする強い女であったのが、バンクォーの暗殺を境に狂気に陥り、「血のシミが、まだここに」の台詞の夢遊の場へと進んでいく。 ここで田村麻子のマクベス夫人が登場し、デズデモーナの場と同じように、二人は瞬時、ともに舞台上にあって、やがて田野聖子のマクベス夫人は同じようにして退場していく。
 「血のシミが、まだここにひとつ・・・アラビア中の香油を使っても、この小さな手を清めることはもうできないのね」と田村麻子が絶望のアリアを歌いあげる。
 15分間の休憩の後、<悲しみの女たち、その3>、宝石を散りばめた、きらびやかな純白の衣装がまぶしい姿の「コーデリア」が始まる。
 後半のコーデリアを演じる田村麻子が歌うアリアは、今回の上演のために大島ミチルが新たに作曲した世界初演の新曲で、正気を失ったリアとの再会を果たしたコーデリアが「I am ~わたしです~」と父に答えるシーンで絶唱される。
 最後の<哀しみの女たち、その4>は、狂乱の「オフィーリア」の場面から。
 「みなさんの遊びの仲間に私も入れてくださいな」と狂ったオフィーリアは、「ハムレットは私の夫」と錯乱しながら歌い、花輪の冠を小枝にかけようとして川に溺れてしまう、オペラ『ハムレット』のクライマックスのシーンで舞台は暗転し、幕となる。
 シェイクスピアの四大悲劇のヒロインたちの劇を、田野聖子の一人芝居と、田村麻子のオペラアリアを贅沢に鑑賞。上演時間は、休憩を含めて、1時間55分。

 

台本/W. シェイクスピア、翻訳/西ケ廣渉、構成・演出/髙岸未朝
作曲/G. ヴェルディ(オセロ/マクベス)、A. トマ(ハムレット)、大島ミチル(リア王)
「コーデリア」歌詞/ゲーリー・パールマン
1月8日(土)14時開演、銀座・王子ホール、チケット:(シニア)6000円、座席:F列15番


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