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2022年のシェイクスピア劇回顧

 2020年の年初めに始まった新型コロナ感染の流行から3年目となる今年も、感染は収束するどころかむしろ拡大の一途をたどっている。しかしながら、これまでのまん延防止等の規制一筋から第七波を境に、政府は経済活動を回すためにウィズ・コロナに舵を切って、いろいろな規制の枠を外していった。しかしコロナが収まったわけではなく、この冬は第八波がインフルエンザの流行と軌を一にすることが懸念されている。
 そのような状況下で2022年の演劇界、シェイクスピア劇の公演もめっきり数が減ってしまっただけでなく、予定されていたものが出演者の感染で中止になった公演もいくつかあり、コロナの影響は計り知れないものがある。公演の数が少ないのは、コロナの流行が3年目となることから、予定が立てられないことも大いに影響している。特に大劇場では、通常、劇場確保のため一、二年前から押さえる必要があることなどから余計に予定が立てられないことも関係しているだろう。
 観劇予定していた公演で、出演者のコロナ感染で中止となった公演として、2月の"蓮x歌"公演『新編ハムレット』、及び横浜山手芸術祭参加の東京シェイクスピア・カンパニーのドラマティック・リーディング公演『リチャード三世という男』がある。後者は、その時自分も感染してしまったので、中止でなくとも観劇できなかった。
 ただでさえ数少ない公演で、自分の都合で観劇できなかったものもあり、今年のシェイクスピア劇の観劇数は淋しい限りであるが、それでも注目すべき公演がいくつもあった。
 2022年のシェイクスピア劇観劇は、ジョエル・コーエン監督の映画、『マクベスの悲劇』から始まった。そして演劇では、名取事務所の一日限りの公演、オペラと演劇の組み合わせによるシェイクスピア四大悲劇のオムニバス上演が最初であった。
 コロナによる規制で自粛されていた年末恒例の大学のシェイクスピア劇公演も再開されたが、一部は関係者のみの観劇に限定され、一般公開までには至らなかった。大学の演劇では出演者の確保が問題であった。この3年間、対面授業や学内行事も実施できず、演劇部の部員が2,3年生の中抜けの状態で、出演者の確保ができず、継続すら危ぶまれる状態である。そのような厳しい状況の中で、明治大学シェイクスピアプロジェクトだけは異例で、関係者・部員数もこれまでの最高で200名を超えただけでなく、観客動員数もこれまで通りであった。但し、今回はコロナ感染による規制を考慮して演目を二作品に分け、優先予約は一作品選択での抽選であった。
 暮れには、彩の国シェイクスピア・シリーズで、コロナで中止されていた最後の一作『ジョン王』が彩の国に先立ってシアターコクーンでの東京公演が年末から新年にかけて上演されることになったが、自分は日程の関係上、2023年の2月の埼玉公演で予約を入れた。
 例年であれば、「私の選んだベスト5」をあげるところであるが、今回は観劇数も少ないことから趣向を変えて、別の角度から今年注目した公演をあげる。


●2022年、私が注目したシェイクスピア劇 (観劇順)

1. 名取事務所公演『I am…哀しみの女たち』
四大悲劇のヒロインたち―デズデモーナ、マクベス夫人、コーディリア、オフィーリア―をテーマにした演劇とオペラの組み合わせ。
2. 板橋演劇センター特別公演・実験劇場、『アントーニオ』と『シャイロック』
連日20万人を超すコロナ感染者数、第七波真っ最中の中でのユニークな実験劇。相対立するアントニーとシャイロックをそれぞれ主人公にした『ヴェニスの商人』。
3. 戯曲組公演『令和X年のオセロー』
還暦を迎える吉村元希がヒロイン、デズデモーナを演じることで、レイシズム、セクシズム、エイジズムの三大差別の全てを乗り越える試みという、『オセロー』解体劇としてのデズデモーナ・マシーン劇。
4. 版画で「観る」演劇xシェイクスピア・シアター公演『ハムレット』
国立西洋美術館で開催中の<フランス・ロマン主義が描いたシェイクスピアとゲーテ展>で、ドラクロワの版画『ハムレット』の各場面を背景にして、ドラクロワを口上役として5人の俳優が5幕を演じるドラマ。構成と発想が秀逸であった。
5. フラットステージ、gaku-GAY-kai2022公演『贋作・テンペスト』
女装ゆえに追放されたプロスペローの復讐と許しの物語りとしての発想の奇抜さの面白さと、あっと驚く新事実(?!)と、結末の改変。

●特別賞 (観劇順)

1. シアターRAKU創立25周年記念公演『から騒ぎ』
1997年、平均年齢48歳のシニア劇団が、50代の新人も加わり今では平均年齢68歳。時代設定を時代劇にし、名前も武家風に変え、歌って、踊って、恋をするミュージカル劇。
2. イエローヘルメッツ第1回公演『ヴェニスの商人』
"子供のためのシェイクスピア"の名を改め、山崎清介が新たな出帆。久し振りに伊沢磨紀がカムバックし、シャイロックを演じる。
3. 明治大学シェイクスピアプロジェクト・第19回公演、『夏の夜の夢』+『二人の貴公子』
2016年の第13回公演ではこの二作を一つの作品として公演したが、今回はコロナの影響を考慮して一つずつ独立させての上演。招待枠で二作を同日に観劇。いつもながら、そのパワーと熱気に圧倒される思い。

 

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