高木登 観劇日記2021年 トップページへ
 
   第18回明治大学シェイクスピアプロジェクト(MSP)
        『ロミオとジュリエット』 
               No. 2021-016

 例年だと抽選でAブロックが当たると招待席は辞退して早めに出かけて最前列をゲットしていたのだが、このコロナ禍で座席指定となってどの席になるか分からないので初めて招待席に座った。
 明治大学のアカデミーホールの舞台は左右にも幅広く最前列だと全体を見通すのが難しいのだが、学生さんたちの熱気と、細かい表情や息づかいまで感じられるので最前列を選んでいたが、招待席は全体を見通すのにもよく、遠くがよく見えない自分にとっても許容の範囲の距離であった。
 出演者やスタッフを含めて200名近くの学生たちが集まるMSPは明治大学の学内でも人気が高く、それだけにいかに多くの学生を出演させるかということでコーディネーターの演目選びも大変で、それが逆に幸いしてか、シェイクスピアの作品を2作組み合わせたりしての企画など、これまでにも数多くの興味深い上演を生み出してきた。
 そのコーディネーターの井上優文学部准教授のプログラムの中で、学生たちの間に伝説的にもなっているという「井上先生は『ロミジュリ』をやらない」という様々な理由に対して、井上先生は、『ロミジュリ』は登場人物が少なく「学校行事である以上なるべく大勢を舞台に上げたい」というコンセプトから外れるが、特別公演として小山内薫の『ロミオ、エンド、ジュリエット』の地方公演と抱き合わせることでその問題を解決させ、今回の公演が実現されたことを述べておられる(『ロミオ、エンド、ジュリエット』の地方公演はコロナの影響でユーチューブ配信となったが)。
 蜷川幸雄は、演劇は冒頭の3分間が勝負だと言っていたが、MSPの『ロミジュリ』も出足の導入部が注目された。
 『ハムレット』の劇中劇の黙劇を思わせるような、物語の梗概がダンスを交えた黙劇で演じられた後、キャピュレット家とモンタギュー家の召使たちの喧嘩騒動が繰り広げられ、その喧嘩騒ぎの所作がスローモーションの動きに変わったところで、プロローグの序詞役の台詞の1行1行が、その場の一人一人から語られたのは非常に興味深い演出であった。
 一部の男女の役をあえて入れ替えてのキャステイングも興味深かった。
 その代表的なものとしては、ベンヴォーリオとパリス伯爵を女性が演じさせ、モンタギュー夫人を男性にキャステイングしているが、それもあえて男性らしくとか、女性らしくとかでなく、自然体で演じさせているところが好感を持てて非常に良かった。
 なかでも意表を突かされたのはパリスが中国語での歌を歌っての登場で、最初は何事が始まったのかと思った。
 キャステイングを見ると彼女は揚喜清(商2)と中国名になっているので、それを生かしての演出だったのだろう。
 プロデューサーの牧さんと演出の宮西さんの対談を読むと、ロミオを演じた家入健都君(経営4)は稽古では乳母役をずっとやらされていて本人もそのつもりでいたらしいが、そういった細かい工夫の中からこのようなキャスティングがなされてきたことを知ると興味深いものがある。
 劇の冒頭で黙劇を演じた出演者たちが劇の進行中に、夜警などの役を演じながら劇の進行を見守る役として舞台上にずっといるのもギリシア劇のコロス役のようで、面白い趣向だと感じた。
 蜷川幸雄の『ロミオとジュリエット』は疾走する『ロミオとジュリエット』として有名だが、MSPの『ロミオとジュリエット』は、それを体現化した、若さという熱気の溢れる、熱い思いの舞台であった。
 招待席は、動きを全体的に見渡すことができたのは利点であったが、いつも楽しんでいる細かい表情の一つ一つ、熱気がそばで体感できなかったのは残念だった。
 しかし、昨年実際の舞台を観ることができなかったMSPの公演を、コロナ対策という制約はあるものの、舞台上に観ることができたのは何よりの喜びであった。
 主な出演者は、先に上げた名前のほか、ジュリエットに永山莉々子(情コミ2)、大公に西川純平(経営2)、マーキューシオに田中悠貴(文2)、ベンヴォーリオに村越風歌(情コミ1)、ティボルトに阪上祥貴(総数2)、モンタギュー夫人に小林雅人(経営3)、乳母に橋本彩(政経4)など、総勢24名、舞台上の楽器隊10名。
 上演時間は、休憩なしで2時間。


翻訳/学生翻訳チーム・コラプターズ、プロデューサー/牧加奈子(情報コミニケーション学部2年)
演出/宮西桃桜子(政治経済学部4年)、監修/西沢栄治
11月14日(日)12時開演の部、明治大学駿河台キャンパス・アカデミーコモン3F・アカデミーホール
座席:16列15番


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