高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   東京シェイクスピア・カンパニー(TSC)30周年記念公演
               家族の絆の物語 『冬物語』       
No. 2021-015

 昨年設立30周年を記念して上演する予定であった『冬物語』、コロナでまる1年延期しての公演が実現。
 出演者数もこれまでの東京シェイクスピア・カンパニー上演と比べてめずらしく15名と華やかで、脚本・演出もこれまで観てきた他者の演出には見られなかった斬新なもので、心ときめくものであった。
 江戸馨の紡ぎ出す『冬物語』は、「家族の絆」を軸にした「痛みを伴う再会」をテーマに据えることによって、ハーマイオニの石像が動き出し、レオンティーズとの再会に涙を誘う感動的なものに仕上げたが、終わりだけでなく冒頭からオリジナルな場面を表出し、その世界に引き込んでいった。
 前半部のシチリアの場面は暗いものであるが、ボヘミア王を迎えたシチリアの宮廷は宴会が続く賑やかな雰囲気で、王子マミリアスが舞台上を走り回り、3人のタイムズ姉妹がその光景を見守っているところから始まる。
 3人のタイムズ姉妹は、前半部のシチリアの場面と後半部のボヘミアの場面をつなぐ「時」としてだけでなく、侍女や、毛刈り祭りの村人たち、そしてシチリアの紳士たちの役割をも担って終始舞台上に存在する(この演出は、『マクベス』の3人の魔女たちを、魔女としてだけでなく、マクベスの城の侍女などの役などでたえずマクベスの周囲に存在させ、「見る」という行為によって、劇の展開における中心的役割を担わせた演出を思い出させるものがある)。
 自分が『冬物語』の演出で特に注目する点が2つほどあるが、その一つは、レオンティーズが突然嫉妬にかられて豹変する場面で、それが納得感を得させるものであるかどうかという点である。
 江戸馨の演出では、レオンティーズはハーマイオニにポリクシニーズへの説得をハーマイオニに任せて一時退出してしまい、しばらくたって戻ってきたとき、ハーマイオニがポリクシニーズと手を重ね合わせている光景を目のあたりにして一瞬息をのむが、すぐに気を取り直してハーマイオニにポリクシニーズの滞在を延ばすことができたかどうか尋ねる。
 レオンティーズの突然の嫉妬は、彼が再び現れた時に見た光景が引き金となっていて、そこから妄想が妄想を産んでいくもので、それを可視化して表出させた大久保洋太郎の演技に引き込まれていった。
 後半部のボヘミアの場面は毛刈り祭りで象徴されるように明るい雰囲気の場面であるが、ポリクシニーズが息子のフロリゼルを怒りで叱り飛ばす場面は、レオンティーズの突然の嫉妬と相似して明暗綾となしているのが印象的であった。
 今一つ注目している場面は、ハーマイオニの彫像が動き出してレオンティーズとの再会を果たす場であるが、ハーマイオニを演じるつかさまりの演技が、前半部と最後の場面ががらりと変わっているのも見ものであった。
 頭を心もち傾げ、こぶしを握った両の手を固くつきあわせた彫像を演じるつかさまりのハーマイオニの姿は、如来観音か菩薩のように感じられ、身じろぎ一つしない姿が心に強く迫ってくるものがあって、声一つ出さずにレオンティーズと抱きしめ合うところは感動に満ち溢れ目頭が熱くなった。
 自分が観劇したのはこの公演の初日で、初日の大サービス(?!)に、毛刈り祭りの場面でタイムズ2の役をしている江戸馨からゲストの出演の案内があり、彼女の夫君で作家の奥泉光が登場し、演技心たっぷりに笛の演奏を一曲披露して毛刈り祭りの祝宴の場を盛り上げたのも一興であった。
 出演者は数が多いだけでなく、30周年記念公演にふさわしく、TSC公演にしばしば出演している劇団AUNの星和利がカミローに、原元太仁が貴族アーキデイマスと老羊飼い、久しぶりに見る大須賀隼人がアンティゴナスと羊飼いステファノ、ポーライナには自分としては今回初めて見る(記憶にないだけかもしれない)清水まゆみが凛として好演、ポリクシニーズに遠藤哲司、パーディタの野本早希とフロリゼルの前木健太郎は若くフレッシュさを存分に感じさせ、オートリカスに緒川尊、タイムズ3姉妹に朝麻陽子、江戸馨、阿宗月童、マミリアスに赤坂志保、エミリヤとダイオンに本山ゆきが、それぞれ好演。
 上演時間は、休憩なしの1時間55分。

【お断り】
 文中の「家族の絆」と「痛みを伴う再会」は『冬物語』のチラシとプログラムから再録させていただきました。

 

脚本・演出・製作総指揮/江戸 馨、舞台美術/山下昇平、音楽監督・パーカッション/栗木 健
11月10日(水)15時開演、中野・テアトルBONBON、料金:4500円、座席:E列8番

 

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