高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   野外劇、青木豪による上演台本・演出 
     イン・プレイハウス 『ロミオとジュリエット』        
No. 2021-014

 この野外劇ロミオとジュリエットは、「歴史のまばたき」をテーマにした東京芸術祭2021の参加作品の一つとして当初は池袋西口公園野外劇場での公演予定であったが、新型コロナの感染対策としてプレイハウスに移動しての上演となったものである。
 東京芸術祭のテーマの一つに「ひらく」というものがあり、この公演を「ひらいた」ものにするために最も適切なものとして、演出の青木豪は『ロミオとジュリエット』選んだ理由をあげている。
 シェイクスピアの劇は当時の演劇事情もあって女性の役が少なく、あってもせいぜい4人程度の出演で、この『ロミオとジュリエット』の女性役もジュリエット、キャピュレット夫人、モンタギュー夫人、そしてジュリエットの乳母の4人でしかない。
 今回のこの公演は全キャストオーディションでありながら、数の上で女性俳優に対して「ひらかれて」いないという理由で、モンタギュー家を女性キャストとし、一方のキャピュレット家を男性キャストとした。
出演者は、945名の応募者の中から選ばれた14名。
 キャピュレット家とモンタギュー家を男性側と女性側に分けることで両家の対立が男社社会と女社会に分断され、いわば「閉じられた」世界となり、若い二人の男女の死という悲劇によってその「閉じられた」世界が解放され、両家の和解によって「ひらかれた」世界という、未来への希望を託したものとなっている。
 現代社会は貧富の格差など「分断」された社会となっているだけでなく、ジェンダーということに関しても様々な領域において偏見による分断が生じている。
 ジュリエットを演じた阿久津仁愛は女性よりも女性らしく、美しく、トランスジェンダーを感じさせたが、このことは、はからずもトランスジェンダーの問題をも抱合していることを浮かび上がらせた。
 建築現場の足場構造の舞台装置は、この劇が本来野外劇であることから、動きの広い空間を生み出している。
 演出者が後付け理由としてあげた、「男女がほぼ分断され」「人はみな、望む性を自由に名乗れる」「近未来の池袋」を表象化した舞台であった。
 ロミオ役は川原琴響。
 上演時間は、休憩なしで2時間。

 

訳/松岡和子、上演台本・演出/青木 豪、美術/杉山 至
10月17日(日)13時開演、東京芸術劇場プレイハウス、チケット:500円、座席:O列3番

 

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