コロナ禍が続き、演劇界も多くの制約条件の中で上演せざるを得ないのが実情である。
その中であえて「正攻法」と銘打っての上演の意味は、基本的には、本来「遊び場」である「遊び事」を、「近づかず、離れて、向き合わず」という制約条件をクリアしながら芝居に向き合う姿勢、と解してよいだろう。
この制約条件を満たすには上演時間も大きくかかわってこざるを得ず、芝居の展開のテンポも速い。
芝居の中心は後半部の劇中劇『冗長にして短き、若きピラマスと恋人シスビーの爆笑悲劇』となっていて、芝居を観終えた後の感想は、アテネの恋人たちと妖精の話は、前座、もしくはプロローグ的なものに感じられた。
それを裏付けるのは、アテネの職人たちを演じるのが円のベテラン俳優人であるキャスティングにも現れている。
ピラマスを演じるボトム役には金田明夫、口上役のピーター・クウィンスに上杉陽一、塀を演じる鋳掛屋のスナウトに山崎健二、シスビーを演じるふいご屋のフルートに原田大輔、ライオンを演じる指物師のスナッグに吉澤宙彦、月を演じる仕立屋のスターヴリングに和田慶史朗。
せりふ回しや鉦や太鼓の囃子の音楽は歌舞伎調で、演じる者たちがその芝居の中で楽しんでいる。
この劇中劇がたっぷりと時間をかけて演じられ、この劇を見るに忍びないものと評していた祝宴係のフィロストレイトが、劇中劇が終わるや否や真っ先に「ブラボー」の喚声を張り上げ、つられて観客席からも拍手喝采が起こった。
今回の見どころはこれに尽きるが、演出の特徴として感じたのは、オーベロンをはじめ妖精たち全員が赤一色の衣装であったことで、これはむしろ異様さと意外性を感じさせた。
その妖精たちの衣装と対照をなしていたのは、シーシアス公爵とヒポリタの純白の衣装で、これは妖精たちとの意識した対照かと思われる。
今一つの特徴としては、公爵とヒポリタと妖精の王オーベロンとティターニアもダブリングなしで、名前のある登場人物はすべて一人一役で全員登場させていることであった。
公爵には大窪晶、ヒポリタに清水透湖、イジーアスに世古陽丸、フィロストレイトに佐々木睦、オーベロンに石井英明、ティターニアに吉田久美、パックに玉置祐也、来サンダーに近松孝丞、ハーミアに平田舞、ディミ―トリアスに平野潤也、ヘレナに藤好㮈子、他妖精たちが5人で、総勢22名。
上演時間は、休憩なしで2時間。
翻訳/松岡和子、上演台本・演出/鈴木勝秀、美術/乗峯雅寛
10月6日(水)13時開演、吉祥寺シアター、チケット:5800円、座席:C列5番
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