高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会(SAYNK) 第12回
      日英語朗読劇 『The Winter's Tale/冬物語』     
No. 2021-006

 新型コロナウィルスの関係で公演が中止になったり、上演予定が立たなくなったりと数々の試練の中で、今回は会場確保の問題が重なって、これまでの神奈川近代文学館から場所を変え、横浜人形の家「あかいくつ劇場」へ場所を移しての開催。
 しかし、これらの障害と感染対策により新たな工夫も生まれてきている。
 これまで、第一部として上演作品の30分間のレクチャー、第二部で日英語朗読劇の上演の二部構成であったものを感染対策の一環としてレクチャーを取りやめ、その代わりにレクチャー講師でSAYNK代表の瀬沼達也がレクチャー概要として「『冬物語』上演に込めた『春よ来い』の熱き思い」と題した中身の濃い小論を配布された。
 今回の朗読劇はその代表の熱き思いが噴出して、観客にも伝わる素晴らしい上演であったとともに、特筆すべき素晴らしい点がいくつもあった。
 その一つは、マミリアスが「時」として『冬物語』を冬の物語り、レオンティーズの一睡の夢物語として結んだ構成であった。
 ハーマイオニの蘇生(復活)、親子の再会の後、レオンティーズの言葉を最後に全員が退場し、マミリアスの「時」が原作にはない春の到来のエピローグを語り、そこにレオンティーズが戻って来て椅子に座り、眠りに陥る。
 目覚めたレオンティーズが生きているマミリアスを見て、それまでの出来事が夢であったと安堵し、マミリアスを抱きしめる終わりは秀逸で、レオンティーズの眠りは「冬」であり「死」を象徴し、マミリアスのエピローグの台詞の「春」は「復活」を象徴して、これまでに味わったことのない感動的な終わり方であった。
 瀬沼は『冬物語』の小論の中で、ポーリーナがレオンティーズに、ハーマイオニの彫像が動くには「それにはまず、信じる力を目覚めさせていただかねばなりません」という台詞を取り上げて、「信じる」=「信仰」を目覚めさせることが観客にとっても重要だと説かれているが、このことについて特に感慨深かったのは、このところ日課で毎朝読んでいるジョン・ダンの『説教集』の中の一文を思い出したからでもあった。
 それは、「ナイトにしてロンドン長老参事会委員であるサー・ウィリアム・コケインの葬儀に当たって」と題する1626年12月12日の説教の中で、『ヨハネによる福音書』11章にある「ラザロの死と復活」を引用して、死者の蘇生、復活に関してダンは幾度も、信仰の欠如、薄さ、不完全さについて説いており、それがハーマイオニの蘇生、復活についてもポーリーナ(=瀬沼)の指摘と重なってきて、その偶然性を感じさせられたからでもあった。
 敬虔なるキリスト教信者でもある瀬沼は、シェイクスピアを聖書に関連して読み解いていくことを一つの課題にしているが、今回は取り上げた作品自体と相まってそのことを強く感じさせるものがあった。
 次にキャスティングの工夫も特筆すべきところが多々あった。
 その第一が、前半部のシチリアの場面で、レオンティーズを演じていた瀬沼達也が、後半部のボヘミアの場面でフロリゼルを演じたことであった。
ハーマイオニを演じる門田七花が後半部でパーディタを演じるのはごく自然な流れだが、レオンティーズを演じた瀬沼がフロリゼルを演じたことで、この劇の終わりを観終わったとき、フロリゼルとパーディタの恋が、23歳のときのレオンティーズとハーマイオニの姿であることを喚起させる。
そのことは、前半部から後半部では16年の歳月が過ぎ去っているが、時は逆にさかのぼって、レオンティーズは16年前の23歳の自分に戻り、ハーマイオニはパーディタと同じ16歳で、最後にこれが夢物語であったことと重なり、レオンティーズを演じた瀬沼がフロリゼルを演じた効果を高めている。
 ボヘミア王ポリクシニーズを演じる増留俊樹が、オートリカスの役でこれまで自分が知らなかった彼の歌唱力の側面を見せてくれ、それを大いに楽しませてくれた。
彼の独唱もさることながら、モプサを演じる林佳世子とドーカスを演じる東野遥との3人での輪唱も、たっぷり楽しく堪能させてもらった。
 増留の台詞では、ポリクシニーズの平常の声とフロリゼルに怒りの声を発する時の変化、そしてオートリカスが羊飼いの親子の前で貴族に化けての声色を変えるなど、その変化の巧妙さに改めて驚きをもって聴いた。
 ハーマイオニを裁く法廷の場で、ポーリーナがハーマイオニの死を嘆き、レオンティーズを難詰する場面でのポーリーナを演じる林佳世子の台詞力は圧巻で、ただただ感動して聴き入り、目頭がほてってしまったほどだった。
 純白の衣装でハーマイオニとパーディタを演じた門田七花の英語の発声も清澄なすがすがしさがあってよかった。
 マミリアスとして「時」の役を演じた佐瀬恵子の各場面の概要のナレーションで物語の進展を語る構成も、この物語をまったく知らない人に理解してもらうのには非常に良かったと思う。
 出演は、そのほかにカミロー役の細貝康太、それに貴族や道化役の飯田綾乃(スタッフとして効果音の音楽も担当)を加えて、総勢8名。
 日英語の朗読という点については、前回の『オセロー』の朗読劇ではそれまでの英語主体の朗読から異なって日本語での台詞が増えたため、その変化についていけなかった嫌いがあったが、今回、日英語の比率を50%ずつにしたものの、日本語と英語のどちらの台詞にするかの配慮と工夫がなされていて、前回のような戸惑いはなくなり、大いに改良されて感じられた(これは、これまでの観客としての自分の聴く姿勢が、前回ついていけなかったこともあってのことだった)。
 コロナ感染対策もあって客席は一席あけるという制約ながらほとんど満席状態で、観て、聴いて楽しめる、活況のある舞台であった。

 

構成・演出/瀬沼達也
シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会(SAYNK)主催/横浜山手読書会共催
6月6日(日)14時開演、横浜人形の家「あかいくつ劇場」

 

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