高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   鮭スピアレ版、肉体を持たない『リチャード三世』        No. 2021-002

 当日もらったプログラムの「作品解説」の冒頭の文章、
 <これは、肉体を持たないリチャードが、リチャードであり続けるための「儀式」の形を借りた演劇である>
と書かれてあり、またプログラムの各場面のタイトルに、この劇の構成・演出のエッセンスのすべてが言い尽くされているので、各場面のタイトルをそのまま列記する。

 第一場第一場 リチャードがおのれの境遇を語り芝居を仕組む段
 第一場第二場 リチャードがその義父と夫を殺した寡婦であるところのアンを口説き落とす段
 第一幕第三場 先の王妃マーガレットがリチャードに呪いの言葉を吐く段
 第一幕第四場 リチャードが殺し屋を差し向けて兄のクラレンスを殺す段
 第二幕第二場 リチャードによって不幸な目にあった者たちがひたすら嘆く段
 第三幕第五場・第七場 リチャードがバッキンガムとともに猿芝居を打って王位を手に入れる段、は段になれなかった段
 第四幕第二場・第三場 バッキンガムに対する疑心暗鬼が増幅し続けるリチャードの元に謀反の知らせが入って出陣を決心する段
 第四幕第四場 リチャードを呪うマーガレットが呪いの完成を祝う段
 第五幕第三場 かつてリチャードが死に追いやった者たちの亡霊が現れリチャードの敗北を言い渡す段

 各段のタイトルを見ただけでその場面の梗概がすぐに思い浮かんでくる秀逸なキャッチコピーに感心させられる。
 各段はそれぞれ独立した一つの場面として味わうことができ、後見役を演じる宮川麻理子と若尾颯太の二人が各場面のタイトルを口上として述べ、各段のウタイとマイは、上埜すみれ、宮崎悠理、箕浦妃紗、水上亜弓、清水いつ鹿の5人が演じ、第一幕第四場のクラレンスの殺し屋には後見役の宮川麻理子と若尾颯太が狂言回し的に演じさせたのも興味深かった。
 鮭スピアレ版シェイクスピア劇は、坪内逍遥訳でコンテンポラリーダンス風の能様式による演出を特色にしており、これまでもシェイクスピアの様式化劇を楽しませてもらっているが、今回特に注目を引いたのは、一部の場面でラップ調の囃子を用いていたのが斬新な感じで面白かった。
 作品解説から一種の夢幻能を想像したが、最後の場面で5人の演技者たちが全員舌を出して「あっかんべー」の様相を見せていたことから、狂言回しとしてのリチャードを感じさせられたのも印象的であった。
 シェイクスピア劇は時代から言えば古典劇であるが、そのエッセンスは現代に通じるものであり、その意味合いにおいて鮭スピアレ版シェイクスピア劇は、伝統芸能を用いながら現代というコンテンポラリー性を融合させているところに一つの可能性追求という点に大いに興味と関心を感じて毎回観させてもらっている。
 今回は、コロナ感染下ということもあって、その感染症対策として、
<「一つの役を複数人が演じる=稽古や公演時やむを得ず欠席者が出た時の上演中止のリスクを減らす」「短い場を集めて構成する」「劇中の音楽、音声の事前収録」という演出をした>
という言葉を「作品解説」の結びの文としているが、感染対策が「怪我の功名」ともいえる新たな着想を生むという思わぬ効果があったと思わせる舞台であった。
 上演時間は、休憩なしで70分。

 

翻訳/坪内逍遥、構成/宮川麻理子、演出/中込遊里
4月18日〈日〉15時開演、銕仙会能楽研修所、チケット:4000円、全席自由席

 

>> 目次へ