高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   板橋演劇センター公演No. 106 
         『終わりよければすべてよし』          
No. 2020-026

 本来7月に公演される予定が、新型コロナ感染によって延期され今回の公演の運びとなったが、感染は収まるどころか現状では第三波として拡大の状況にあり、稽古も十分には出来なかったことと推察される。
 その影響もあってか、この劇のタイトルのように舞台の演技も終わりがよければすべてよしなのだが、残念ながら大詰めの最後の場面では台詞が飛んでプロンプターがかなり入り、もどかしさが残る舞台であった。
 この劇は「問題劇」に挙げられる作品の一つで、特に最後の場面でバートラムがヘレナを「いつまでも愛します」という言葉が文字通りに受け取れるかどうか疑問を残す台詞となっており、その曖昧さにおいて『尺には尺を』の最後の場面でイザベラが公爵の求愛を受け入れるかどうか、曖昧な終わり方をするのと同じである。
 この舞台の演出、あるいは演技ではヘレナを演じる朱魅がバートラムの言葉を疑う余地もないほどにあまりに明るく受け入れ、バートラムの古谷一郎を自分のペースに引き込んでしまい、ハッピーエンドの喜劇の仕立てとなる。
 演出としての演技であれば演出上の考えとしてそれはそれでよいのだが、演技上の問題であれば、この劇の要の場面であるだけに少し残念である。
 この劇のテーマはタイトルにある通り「終わりよければすべてよし」であるが、このキーワードは、ヒロインのヘレナから「終わりよければすべてよし、終わりこそつねに王冠です」と語られ、結びの場面でフランス王が「終わりがこのようにめでたく収まればすべてよしだ」と語られることで、ヘレナの「つねに王冠です」という台詞が期しくも王の台詞で文字通り体現されることになる。
 今回は登場人物のキャスティングの面で大きな特徴と意味合いがあるようだ。
 今月末に70歳を迎えるという主宰者の遠藤栄蔵がフランス王を演じ、彼曰く、彼と同年配の兄弟分たちを中心にした座組で、なかでも土方与志の演出で初めて舞台で演じたという三條三輪がロシリオン伯爵夫人を演じ、彼女とともに「虹企画/ぐるうぷ・しゅら」を主宰する跡見梵が公爵夫人の執事リナルドー、同じく虹企画のメンバーの森奈美守がフローレンス公爵とキャピュレット夫人の隣人マリアナの二役、そして若手のメンバーである塩塚みわがダイアナを演じた。
 三條三輪は高齢でもあり足腰が弱っているせいか椅子に座ったままの演技であったが、大学では耳鼻咽喉専門で舞台発声学をも研修したというだけあって、声は太くはないものの凛として通っていた。
 パンフレットの口上書きによれば、今回のこの舞台は「(彼女の)最終景の為の配役と言ってもよく、夢を求めて旅立つ若者たちを案じ見守る親たちの思いとしての、三條三輪を中心にした」舞台といえる。
 この舞台の脇を固めているのは、老貴族ラヒューを演じる加藤敏雄、貴族デュメーン兄の深澤誠、フランスの紳士の桑島義明、そして最近の板橋演劇センターでは道化を演じるのに欠かせない眞藤ヒロシが道化のラビッチ、バートラムの家臣のペーローレスを松本淳と、いずれも最近の板橋演劇センターでは常連と言ってもよいメンバー。
 コロナ禍で登場人物も絞ったとはいえ、主要人物はすべてそろっており、総勢14名の出演。
 何よりもよしとしたいのは、めったに見ることが出来ない『終わりよければ』を、遠藤栄蔵氏の板橋演劇センターによって観ることが出来たことであった。
 フランス王を演じた遠藤氏は台詞こそプロンプターがよく入ったが、舞台の求心力としての重きをなしていた。
 上演時間は、10分間の休憩を入れて、2時間20分。

 

訳/小田島雄志、演出/遠藤栄蔵
11月28日(土)14時開演、板橋区立文化会館・小ホール

 

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