週末の金、土、日を2週にわたっての公演で、先週は満席(と言っても完全予約制で全席、わずか6席)が続いたというが、この日の観客はAさんと自分の二人だけ。
本来は4月のシェイクスピア生誕祭に上演する予定が新型コロナ感染のため、本年の公演予定をすべて中止せざるを得なくなっていたのが、当初の演出案を変更してやっと実現。
ミニミニ・プレイハウス(通常時の超満席の時で、17人の観客収容)で「3密」を売りにしているShakespeare Play Houseが、当初、この劇の上演を出演者と観客が机を挟んでと1対1で向き合って演じるというアイデアも、コロナ禍で3密の真逆を余儀なく強いられての苦肉の策が、「1.5人芝居」という形で実現されることになった。
出演者の一人であるDrペスト(ホースボーン由美)が声色を七変化させて、公爵、バッサーニオ、ポーシャなど複数の役を陰で演じる一方、上演中の照明・音響も一人でこなし、シャイロックとアントーニオの二役を菊地春菊が舞台上で一人演じることから、1.5人芝居と称している。
芝居は、いきなりシャイロックとアントーニオの法廷の場から始まって、その裁判にいたるまでのいきさつが演じられていく。
この劇の一番の見どころは脚本の構成にあって、さらには最後の場面のオチが実に画期的、斬新であった。
ポーシャとバッサーニオの指輪騒動も収まり、アントーニオの持ち船もすべて無事であったことがわかり、めでたしめでたしであるが、最後にシャイロックの家の場面となり、彼に金を用立てたテューバルがやって来て貸した2千ダカットを要求する。全財産を失ったシャイロックの戸惑いの顔と、この短い台詞のちょっとした場面がすごく印象的に残る、原作にはない最高傑作の面白さであった。
劇はそこで終わらず、菊地春菊がイタリア語で「オーソレミオ」を見事な声量で歌い、歌い終わると、こんどはDrペストと二人で「にゃんにゃん踊り」(これは勝手に自分が付けた名前)を踊って楽しませてくれ、サービス満点。
芝居の構成も面白いが小道具類も凝っていて、Drペストはシェイクスピア時代のペストを表象化した面をかぶり、それを今のコロナに象徴させており、舞台背後の壁にはホースボーン由美の手作りによるメデューサの面や、猫の面を飾っている。また、側面の窓のカーテンの下部を半円形の襞折り形状に装飾化していて、部屋の雰囲気を和やかに、柔らかなものにしている。
衣装もホースボーン由美によるもので、ペストの時代のDrペストの衣装もその時代を彷彿させる一方、シャイロックとアントーニオの二役を演じる春菊の衣装は、上は左右が白と黒に別れたワイシャツで、ズボンは白と黒の格子縞、首にはピエロの付ける白いエリザベスカラーを付けて、白と黒は、二人の人物の正と悪を表象化をするとともに、格子縞のまだら模様は道化を模しているようにも感じさせた。
台詞には現在の風潮・世相を感じさせる「総合的、俯瞰的」などの言葉や、ひょっこりひょうたん島、ハンザワー(半沢直樹をもじって?!)などの名前を挿入したり、ポーシャの台詞を「にゃんにゃん語」風にしゃべらせたりするのも一興であった。
凝っているのはそれだけでなく、チケットも「ヴェニスのしょう人傍聴券」となっていて、観客はこの裁判の傍聴人という意識を持たせるようになっており、すべてがアイデア満載となっている。
上演時間は、途中10分間の休憩をはさんで、1時間20分。
検温、手の消毒、マスク着用のみならず、舞台と観客席の仕切りに透明のビニールのカーテンを張っての完全防備のコロナ対策を施しての上演で、上演への情熱を熱く感じ、胸が痛くなる思いであった。
脚色・演出/ホースボーン・由美
11月20日(金)15時開演、Shakespeareポツンと一部屋(小田急線・鶴川駅)
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