高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会(SAYNK) 
         第11回公演 日英語朗読劇 『オセロー』     
No. 2020-021

 今年5月に予定されていた公演が新型コロナ感染の影響で中止となり、半年遅れながら公演実施にこぎつけられたことをまず祝したい。とは言いつつもコロナ感染が収束したわけでもなく、感染拡大の状況次第では中止となる可能性を残しての開催であった。
 このような状況下であったので、稽古もリモートで実際に全員が集まっての稽古は1回だけしかできなかったうえに、公演2週間前にはエミリア役のHさんが体調不良で降板され、急遽、出演者二人がその役をカバーされるというハプニングもあったということであるが、無事上演にこぎつけられたことは何よりの悦びであった。
 コロナ感染で観客数も心配されていたが逆にいつもより多いくらいであった。
 第一部で、SAYNK代表の瀬沼達也氏による『オセロー』レクチャーはいつものように駄洒落満載で肩の凝らない解説であるが、その中にも要点だけはしっかりとおさえられていて参考になることがいくつかあった。
 オセローとデズデモーナの「白と黒」、イアーゴーとの関係では「神と悪魔」など二元論的解釈ではなく、クリスチャンとしての立場から神が唯一絶対の創造主であり、悪魔も最初は大天使であったのが神になろうとして堕天使となったという一元論的解釈、また、シェイクスピアの四大悲劇のタイトルロールの台詞量で、ハムレット、リア王、マクベスはいずれも作品中一番台詞量が多いが、『オセロー』に限っては、イアーゴーがオセローよりも台詞量が多い事から、キリスト教の立場からのイアーゴーに関しての読みときなどについて触れられた。
 第二部の日英語による朗読劇はこれまでとは大きく様子が異なっていた。
 その一番の特徴はこれまでは英語での朗読劇の説明としてナレーターが日本語で場面々々の梗概を語り、台詞はほとんど英語でなされるのが普通であったのに、今回は日本語による朗読が多かったことである。
 出演者の顔ぶれを見ても英語の台詞力は十二分に持ち合わせているにもかかわらず、なぜか日本語での台詞が主体であった。なかでもイアーゴー役をやられた、関東学院大学出身で「劇団ホシ灯り」で一人芝居をやられている佐瀬恵子さんの台詞の大半が日本語であったのは惜しい気がした。
 今回いつもより多い日本語と英語の台詞の交錯で、英語の台詞が続くと思っていたところで日本語の台詞だったりして頭のスイッチの切り替えがうまくできなかった恨みがある。
 ただ、これは毎回この朗読劇を聴いてきた自分と、初めて聴く人では感想は異なるかも知れない。
 取り上げられた場面と登場人物の台詞量では、今回の演出の観点からオセローに焦点があてられ、オリジナルとは異なりイアーゴーよりオセローの台詞の量が多かったように思われた。
 今一つの特徴としては、これまでこの朗読劇は演技を伴う演読劇であったのが、今回はリモート稽古というせいもあって、多くは椅子に座っての朗読であったことである。しかしながら、瀬沼達也氏のオセローは感情の入れ込みも強く、いつもの演読劇で迫真力のあるものであった。
 今回の最大のハイライトは、何と言っても劇団AUNからの友情出演の林佳世子さんのデズデモーナであった。彼女の圧倒的な台詞力に魅せられた。
彼女は幼年時代に合唱団にいて歌唱力も抜群であるのは分かっていたので、「柳の唄」も場面は特に期待していた。その「柳の唄」の節回しが驚いたことに、彼女の出身地でもある九州の民謡の節そのままで、同じ九州出身の自分にはなつかしい響きで、より一層の近しみを感じた(まったくの音痴で歌詞と曲名を覚えるのが不得手で自信はないが、「五木の子守歌」の節回しではないかと思った)。
 出演は、デズデモーナの林佳世子の他、オセローに瀬沼達也、イアーゴーに佐瀬恵子、キャッシオーとエミリア役一部を門田七花、エミリアを飯田綾乃、ナレーターとその他役に増留俊樹の6名。
 上演時間は、休憩なしで90分。
 コロナ騒動でシェイクスピア全作上演を10年で終えるのは少し難しくなってきたかと思うが、このような事態がいつ何時起こるかもしれず、また参加者も長い年月の間には入れ替わってくることであろうし、一つの概念にとらわれずいろんな形態での日英語朗読(演読)劇を追及していってい貰いたいし、それに自分も追いついてもいきたいと願っている。
 いつもなら次回作品と公演日程の予定が出されるが、今回ばかりは次回の予定は未定のままであった。
 早く正常な姿に戻ってほしいものである。

 

演出/瀬沼達也(シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会(SAYNK)代表)
11月3日(火)14時開演、神奈川近代文学館ホール

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