高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   新地球座主催・荒井良雄娑翁劇場 第29回
            朗読劇 『コリオレーナス』          
No. 2020-016

 コロナ禍で今回も客席10人限定の上演、宣伝はFBでのみのお知らせであったが、きっちりと定員で埋まった。
 シェイクスピアの作品の中でも最も知られていないうちの一つで、日本での上演も数えるほどしかないだけに、40分での上演でどこまでこの作品を理解してもらえるかが大きな課題であった。
 台本の構成にあたっては、この作品の見どころ(聴きどころ)の一つであるコリオレーナスの父親代わりともいえる親友のメニーニヤスの、国家を人間の身体に見たてた寓話の台詞からこの劇を展開させたが、この場面では観客を市民に見たてて、観客を納得(理解)させることが出来れば成功だと思ったが、メニーニヤスを演じた高橋正彦の演読にどこまで共感してもらえたか気になる所であった。
 コリオレーナスの人物像を描き出すために、登場人物としては主人公のコリオレーナスのほか、メニーニヤス、そしてコリオレーナスの母親ヴォーラムニャが欠かせない存在だが、台本上ではコリオレーナスの敵役ヴォルサイ人のオフィーディヤスとローマの将軍コミニヤスを加えたものの、演出ではコミニヤスの登場場面をカットして、登場人物を4人に絞り、高橋がメニーニヤスとオフィーディヤスの二役をうまく演じ分け、コリオレーナスは久野壱弘、ヴォーラムニヤは倉橋秀美が演じた。
 この朗読劇で最も期待した場面である、ヴォーラムニヤにローマ侵略を思いとどまるように嘆願され説得されたコリオレーナスが、打ちひしがれ、顔面を紅潮させて今にも激しい涙を吹きこぼさんばかりに演じた久野壱弘の台詞と表情が圧巻で見ごたえを感じさせてくれた。
今回の『コリオレーナス』のすべてであると言っても過言ではないこの場面を、倉橋秀美と久野壱弘の迫真の演読で、この劇をどこまで理解してもらえるかという心配も一気に吹っ飛んだ。
演出の高橋の台本の一部カットとそれを埋めるための追加の場面も適切で、場面の切り替わりに木を入れる音響の効果も非常に良かった。
 コンパクトで、迫真力のある緊張感に満ちた演読劇であった。
 まだまだ続くコロナ禍の中で、演出の工夫を感じさせる朗読劇でもあった。

 

翻訳/坪内逍遥、監修/荒井良雄、台本構成/高木 登、演出/高橋正彦
9月23日(水)18時30分開演、阿佐ヶ谷・喫茶ヴィオロン

 

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