高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   REBORNプロデュース・3 設楽馴主演 『ハムレット』     No. 2020-015

 劇団タイプスの時代からパク・バンイルの『ハムレット』は何度も観てきたような気がするが、観劇日記の記録を振り返ってみると今回が4回目で、もっと見ているような気がしていたので意外と少ないのに自分ながら驚いた。
 タイプスとして初めて観た『ハムレット』は、2007年、俳優座劇場での公演で、パク・バンイルと石山雄大構成で、パク・バンイル演出による新本一真がハムレットを演じたもので、この時にはシェイクスピア・シアターで同時代に活躍した小島典子がガートルード、斉藤芳がホレイショ―を演じ、17,8期生時代のシェイクスピア・シアターを思い出させて懐かしく感じさせてくれたものだった。
 その時の観劇日記の冒頭で、この作品の構成・演出をしているパク・パンイルがプログラムの巻頭の言葉、
<ハムレットという作品に携わっていて、頭から離れないことがある。人間にとって本当の優しさとは何だろう・・・・。この作品はこの事ばかり私に問うてくる。何故だかは自分でも分からないのだが、誠実に、なろうとしている。が『ハムレット』のすべてを物語っているように思う。>
を引用している。
 これ以後のパク・バンイルの『ハムレット』公演は、この彼の「優しさ」がなせる上演ともいえるような気がする。
 その典型的な作品が2015年の上杉豪主演の『ハムレット』である。
この公演は、家業を継ぐために若くして俳優をやめることになった上杉豪が希望したもので、それに応えての抜擢であった。新本一真のクロ―ディアスを除けばほとんどが経験の浅い若手ばかりであったが、その熱い思いの熱気が印象的な舞台であった。
 3度目の『ハムレット』は2018年、嶋田有佑のハムレット、新本一真のクロ―ディアス、君島久子のガートルードであったが、カットも多く、全体的に演技力・台詞力も乏しく、内容の乏しい熱気の感じられない舞台であったと観劇日記に記している。
 そして今回が4度目の観劇となる『ハムレット』。
 チラシの出演者情報でキャスティングを想像するのが楽しみの一つであるが、トップにある名前から設楽馴のハムレットは別にして、パク・バンイルのクロ―ディアス、君島久子のガートルード、調布大のポローニアスは予想の範囲内であった。
 開幕冒頭の場面は、舞台中央にオフィーリアを感じさせる女性が片膝を抱えるようにして座っている姿を、天井からのスポットライトが舞台に向けて円錐状に照らし出す。すぐに4人のダンサーが登場し、彼女もその一人となる。
 夜警に立っているマーセラスと彼の語る亡霊の姿を確かめようとホレイショ―が登場し、亡霊が現れる。
 この場面に続くクロ―ディアス謁見の場では、ハムレットが下手の端、侍女二人、そしてガートルードとクロ―ディアス、ポローニアスとレアティーズ、オフィーリアが横一列に並んで、各々の台詞はその位置で正面を向いて語られ、台詞の相手と対面することはないのが、かえって語りかける相手に対して強い印象を感じさせて、この後一人残ったハムレットの独白の語りも効果的に進行する。
 演出・構成上で注目されたのは、オフィーリアの気持ちを思いやる気持ちを手紙で伝えるレアティーズが読み上げる場面の挿入であった。休憩に入る直前の場面であるだけに、その印象も強く残るものであった。
 墓堀人登場の場面はなく、オフィーリア埋葬の場面は台詞なしで黙劇風に演じられ、その後のレアティーズとの剣の試合を前にしてのハムレットとホレイショ―の会話もカットされたのをはじめ、全体を通して聴きどころの台詞が相当数カットされており、演出上のコンセプトによるものとはいえ物足りない感じがした。
 台詞の大幅なカットと休憩時間を含めて2時間の上演にもかかわらず舞台そのものは冗長に感じた。
 ハムレットは有名な役柄だけに演じる俳優も力が入ると思うが、設楽馴のハムレットも自分のハムレットを演じ切ろうとしている姿が感じられたものの、時として台詞が聴きづらい個所があったのが惜しまれる。ハムレットの圧倒的な台詞量に対して、台詞力の存在感ではクロ―ディアスを演じるパク・バンイルに耳が傾いてしまう。
 赤い衣装のガートルードを演じる君島久子や、大仰な衣装姿でポローニアスを演じる調布大に舞台映えのする存在感を感じさせた。
 そのほかの出演者は、レアティーズに友岡靖雅、ホレイショ―に山崎真太、オフィーリアに覚田すみれ、ローゼンクランツに加納怜、ギルデンスターンに小泉光平、亡霊にムンス、他とダンサー5名。
 コロナ禍の中にあっての公演ということもあってか舞台そのものは静謐な感じであったが、カーテンコールの拍手には熱いものがあった。

 

台本構成・演出/パク・バンイル
7月26日(日)13時開演、座・高円寺2、チケット:5000円、座席:F列8番

 

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