高木登 観劇日記2020年 トップページへ
 
   劇団俳優座公演 『マクベスの悲劇』              No. 2020-011
 

 15日の初日の指定席で予約を取っていたが、その前日になって新型コロナウィルス感染予防拡大防止のため政府によるイベント自粛期間延長の要請で、3月20日から4月30日までの公演延期となった連絡が入り、21日に変更してもらった。
 今回の上演にあたってはいくつかの点で楽しみにしていたことがある。
 一つは、俳優座として1979年に加藤剛主演の『マクベス』以来40年ぶりの上演であるということと、今回の上演のための新訳で、タイトルも原題と同じ『マクベスの悲劇』としていることにあった。
 いわゆる四大悲劇と呼ばれている作品の正式なタイトルにはすべて『…の悲劇』となっているが、上演にあたってはほとんどがタイトルロールをそのままタイトルにしていることが多い。
『…の悲劇』だと、その悲劇が個人化されることにより濃密化され、主人公が近しく感じられるように思う。
 このような理由が重なってこの公演を楽しみにしていたので公演が全面中止という事態にならなかったのでほっとしただけでなく、その期待がまったく裏切られることがなかった。
 というより、あまりに刺激的な演出が続いてその興奮のため、前半部ですっかり疲れ切ってしまい、本来なら山場を迎える後半の場面が、その疲れのため冗長に感じられるほどであった。
 『マクベス』はこれまでに80本近く観てきているが、自分の中では今回の森一が演出した『マクベスの悲劇』は、5本の指の中に入れることができるほど感動的な舞台であった。

 舞台は、三方を観客席が囲む三面舞台で、開幕のシーンから興奮させられた。
 純白のウェディングドレス姿のマクベス夫人と新郎のマクベスが登場して熱い抱擁を交わし、続いてマクベスの同僚や友人たちが現れ、二人を祝福して足を踏み鳴らしてのダンスが繰り広げられる。
 と、突然、戦争の始まりの合図があり、マクベスは戦場へと連れ出され、残された新婦のマクベス夫人は泣き叫びながら後を追おうとするが、3人の婦人に引き留められる。第2の魔女も普通と変わらない衣装、第3の魔女はメイドのような衣装姿で、いわゆる魔女らしい衣装ではない。
そのことで思い浮かんだのは、ホリンシェッドの『年代記』(1577年版)の挿絵にある、マクベスとバンクォーが出会う3人の魔女が「貴婦人」の衣装を着た姿で描かれていることであった。
この3人の魔女は、その普通の衣装のまま、マクベスの使用人として劇中いろいろな役をしながら絶えず登場する。
 最初に演ずる役は、ダンカン王に戦況を報告する傷ついた隊長役で、魔女2が魔女1と3を赤い布切れで覆って自らを傷ついた姿に表象化して語る。
 魔女の役割で一番の極めつきは、門番の役をこの3人が果たす場面であった。
 また、ダンカンが殺された夜のことをロスと語る老人の役は、魔女2が老婆として登場しその役を務め、二人を見送る最後の台詞、「神のご加護がありますよう。お二人にも、悪を善に、敵を味方に変える人々にも」は、その老婆が魔女の化身として登場しているだけに予言めいて聞こえる効果を感じた。
 シートン、イングランド兵の進撃の急を告げる兵士の役、医師の役は、それぞれ魔女1、3、2が、魔女としての普通の衣装のまま務める。
 マクベスを倒した後、マルカムの宣言で「一同に、そして一人一人に感謝する。スクーンでの戴冠式に来てくれ」と語ったところで、魔女3がマルカムの頭上の冠をさっと抜き取り、そのまま舞台は凝結、暗転し、幕となる。
 このようにして、この演出では3人の魔女が中心となっていることがはっきりと感じられた。
 この魔女の演出だけでなく、マクベス、マクベス夫人の人物造形その他でもいろいろ刺激的な演出に興奮の気持が抑えられなかった。
 最初の二人の結婚の場面だけでなく、前半部のマクベス夫人は喜びを声に出して全身で表現していた。
 マクベスの手紙を読む場面では、パジャマ姿で、マクベスがコーダーの領主になったことや、やがては王になるという魔女の予言に「キャハー」というような何とも言いようのない叫びをあげて体いっぱいに喜びを表す姿がかわいらしいほどであった。
 マクベスが現れると、夫人は着替える途中の下着姿のまま、マクベスに熱いキスを交わし、抱擁しあって愛らしい妻を演じる。
 その愛らしい妻が、マクベスが王位に就き、強くなっていくに従い、だんだん明るさが消えていく。
 夢遊病状態で徘徊する場面では、ゆっくりした所作ではなく急ぎ足で歩き、舞台中央の本水をためたピットに入って、上から降ってくる水で手を洗いながら、消えないしみに絶望の叫びを発する。
 一方、マクベスについては、彼の独白の場面では、周囲の人間には所作が止まったままのポーズをとらせることで、彼の台詞が頭の中の出来事として時間が止められた状態を表象化していたのも興味深い演出であった。
 マクベス夫人が亡くなったことを知らされた後の有名な台詞の場面では、ウェディングドレス姿のマクベス夫人が現れてきて、ピットの水の中で踊るようにして幸せいっぱいの雰囲気で踊るようにして動き回る。
 マクベスはうつろな表情で、一語一語噛みしめるように、ゆっくりと、「明日が、…また明日が、…また明日が…」と声を絞り出していく。
 話は全く前後してしまうのだが、マクベスとバンクォーが勝利して戻ってきたとき、ダンカン王が地面を這ってマクベスにすり寄って行き感謝の言葉を述べる姿も、戦況の不利に不安を感じていたダンカンの心の様子が体全体に表されていることを示しているようであった。
 新訳で目立ったのは、より等身大に近づけた言葉遣いの台詞や、マルカムが授けられる称号のカンバーランド公を分かりやすく「皇太子」と訳している点など、余分な知識がなくても聞いてわかる言葉に変えていたことであった。
 この役柄のために頭を丸ぞりにした斉藤淳が精悍なマクベスを演じ、佐藤あかりがこれまでのイメージを一掃する演技のマクベス夫人を演じ、魔女1に山本順子、2を島美布由、3を増田あかね、バンクォーには八柳豪、マクダフに小田伸泰、マルカムに辻井亮人、ロスに河内浩、アンガスに石川修平、ダンカン、シウォード、医師の3役を藤田一真、マクダフ夫人とフリーアンスを池田早紀など、総勢13名の出演。


訳/近藤弘幸、演出/森 一、美術/竹邊奈津子
3月21日(土)14時開演、劇団俳優座5階稽古場、チケット:(自由席)4600円
パンフレット:500円、台本:1000円


>> 目次へ