坪内逍遥訳でシェイクスピアをコンテンポラリー能で上演する「鮭スペアレ」が、今回初めて能舞台での本公演。
前回(2018年12月)公演の『まくべす』の観劇日記では、
<坪内逍遥訳の台詞力や、様式としての「ウタイ」や「能」の所作にはまだ様式(メソッド)として達しておらず、まだ生煮えの感じであるが、その取り組み姿勢には期待したいところが多々ある。>
と感想を記しているが、今回は本格的な能舞台という効果もあってか厳粛な感じを抱かせ、コンテンポラリー(現代風)能としての清新さを感じさせた。
能としての基本形式、囃子方と謡(ウタイ)は、このコンテンポラリー能では伝統的な囃子とは趣を異にし、パーカッションとバイオリン演奏を用い、ウタイはコロスの役割を担っているのが特徴となっていて、演技者が演技をしていないときには、一部の登場人物がウタイや囃子方に加わるのも本来の能とは異なっている。
演技者とウタイは白い装束で統一され、厳粛さと清楚さを感じさせた。
劇中の登場人物は、リア王と3人の娘と、道化、グロースター、エドガー、エドマンドの8人のみ。
開演とともに登場するのは、長い付け髭を付けたグロースター、続いてリア王と3人の娘たちが登場し、国譲りの場から始まる。
葵が演じるリア王は、老人特有の短気さからくる癇癪もちの感情を表出するとともに、道化と戯れる稚気的な側面をも見せた。
この劇団は女性中心であるが、ゴナリルとリーガンには田中孝史と若尾颯太の男優がそれぞれ演じ、男役でなく女役でその存在感を印象付けるものがあり、演技的にもキャステイングとしても成功であったと思う。
茶目っ気のある道化を一ノ瀬唯が演じ、清楚なコーディーリヤを宮川麻理子、エドガーに上埜すみれ、エドマンドに清水いつ鹿、グロースターに水上亜弓、ウタイは中込遊里とフルハシユミコ、パーカッションを五十部裕明、バイオリンを中條日菜子が演奏。
登場しない人物の台詞のつなぎはウタイによって語られ、コーディーリヤとリアの死の最後の場面も台詞ではなく、ウタイによるコーラスとなって語られ、二人の死を見つめるエドガーの結末の台詞もなく、舞台はしずかに溶暗して幕を遂げる。
全体的にかなり圧縮されて台詞も大幅に刈り込まれているが、構成がしっかりしており、『リア王』のエッセンスを十二分に味合わせてくれるもので、成長ぶりを感じさせるものであった。
上演時間は、休憩なしで95分。
訳/坪内逍遥、構成・演出/中込遊里、音楽/五十部裕明
2月11日(日)11時開演の部、南青山・銕仙会能楽研究所、チケット:3000円
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