高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   第14回 横浜山手芸術祭参加作品
    東京シェイクスピア・カンパニー(TSC)朗読劇 『ハムレット』   
No. 2020-005


 山手芸術祭主催者の挨拶にもあったが絶好の快晴日和のなか、今年設立30周年を迎えるTSC(東京シェイクスピア・カンパニー)の横浜山手芸術祭参加作品『ハムレット朗読劇を楽しませてもらった。
 TSC公演のシェイクスピア劇の特徴の第一に、主宰者江戸馨独自の翻訳の魅力があり、朗読劇では特にそのやわらかな翻訳の語り口に魅了されて聴き入るという楽しみをいっそう満喫させてくれる。
 今回の朗読劇は4人の俳優が、いつものように一人何役もの登場人物を演じ分けるということで、その人物ごとの声色の変化を楽しむことができることと、「お耳の恋人」江戸馨の解説が抜群に面白いだけでなく、シェイクスピア劇鑑賞において広く参考、勉強になるものであった。
 そして今回のもう一つの特徴として、翻訳不可能といわれる個所のハムレットの台詞の一部と、江戸馨自身が好きな台詞の一つとしてあげているポローニアスがフランスに旅立つ前に息子のレアティーズに言って聞かせる教訓の台詞の箇所を、江戸馨が美しい英語で朗読され、うっとりと聴かせてもらった。
 ハムレットの台詞の英語の注目の箇所としてあげていたのは、翻訳不可能という箇所で、
 A little more than kin, and less than kind!
I am too much in the sun.
 「son (息子)とsun(太陽と国王の象徴)の切り返し」の部分を詳しい解説を加えたうえで朗読された。
 解説では単に『ハムレット』のあらすじだけでなく、これまでの上演で演じられてきたさまざまなハムレット像の紹介などが詳しく加えられ、これまで自分が観てきた『ハムレット』も含めて新たな視線で鑑賞するのに非常に勉強となり、役立つ解説であった。
 『ハムレット』はシェイクスピア劇の中でも最も長く、通常の上演でも様々なカットがなされているが、今回のように限られた時間の中で、しかも朗読劇ということでは『ハムレット』のエッセンスをどのように伝えるか、という点で構成も重要な役割を担っているが、今回の朗読劇では7つの場面として濃縮されている。その内容は、
1.エルシノアの宮廷の場―いわゆるクローディアスの謁見の場
2.まだ幸せなポローニアス家―レアティーズがフランスに旅立つ前の場
3.クローディアスの手腕とやがて悲劇に巻き込まれる小人物たちーローゼンクランツとギルデンスターンの登場
4.幼友達?-ハムレットと、ローゼンクランツとギルデンスターン
5.王殺しの芝居の後
6.クローディアスの祈り
7.ガートルードの部屋
となっていて、的確で興味をそそらせるサブタイトルが付されている。
 主として演じる登場人物として、ハムレットとレアティーズに丹下一、ガートルードとオフィーリアにつかさまり、クローディアスやポローニアスなどに(真延心得改め)細谷文昭、ポローニアスやロゼなどに江戸馨。
 クローディアスやポローニアスなどは場面ごとに別のキャストが演じ、朗読者による微妙な違いも味わいの一つであった。
 朗読(劇)に関して個人的に、「朗読」、「朗読劇」、「演読」、「演読劇」の区分けをしているが、別に優劣があるわけでなく、それぞれのスタイルに対して個人的な印象と主観で区別しているだけであるが、今回の朗読劇は「演読」として感じさせるものであった。
 特に動き・所作を加えることはないが、表情と台詞の表現力で演技している状態で、動きがない分、自分の頭の中で想像力を働かせて動きを感じさせる朗読で、それだけに江戸馨の翻訳の台詞を楽しんで聴き入らせるものであった。
これまで観てきたTSCの『ハムレット』では牧野くみこのハムレットのイメージが鮮明に残っているが、今回演じた丹下一は、3・11以後、その鎮魂ともいえる『ハムレット』公演の中で毎年のようにハムレットを演じてきており、その台詞力はまさに聴きごたえ十分であった。
 『ハムレット』はその独白の多さでも有名であるが、今回の特徴として、ふつうは一番のハイライトの場として欠かされることのない'To be, or not to be'の独白とそれに続くオフィーリアとの「尼寺の場」がなかったのも逆に印象的であった。
 つかさまりは2011年の『ハムレット』公演でも同じくガートルードとオフィーリアを演じている。
 最後の場面「ガートルードの部屋」でポローニアスを演じる細谷文昭は、ハムレットに殺された後、椅子に座ることなく最後まで死んだ状態の姿勢で立ったままであったのも印象に残るものであった。
 上演時間は約1時間40分。
 表現力豊かな朗読劇に濃密な時間を満喫した。

 

訳・構成・演出・解説/江戸 馨、作曲・演奏/佐藤圭一
2月1日(土)14時開演、横浜石川町・ブラフ18番館

 

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