高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会(SAYNK)特別公演 
     『シェイクスピアとセルバンテスの出会うとき』         
No. 2019-001

 2016年11月にシェイクスピアとセルバンテスの没後400年を記念して瀬沼達也が創作した朗読劇で今回はその2回目の上演。
 SAYNKでのシェイクスピア劇上演が昨年で10作目を終えての特別公演として今回再演されることになり、初演を所用で観ることができなかったので再演は自分にとって嬉しいことであった。
 シェイクスピアとセルバンテスは1616年4月23日に亡くなって同年同日のようになっているが、当時はイギリスとスペインの暦はユリウス暦とグレゴリオ暦の違いで実際には11日のずれがあり、セルバンテスの方が11日遅れて亡くなっている。
 また、1616年には日本では徳川家康が亡くなった年でもあり、そのように見てみると非常に近しく感じることができる。
 『シェイクスピアとセルバンテスの出会うとき』の構成はシェイクスピア劇にならって5幕形式となっている。
 場所は400年後の「天国」のクラシック喫茶店「天の国」で、その喫茶店の常連客たちが、シェイクスピアの「この世」での400年の誕生日を祝うパーティを開くことが話題になっている。
ちなみに、この舞台では「天国」が「この世」で、「現生」が「あの世」となっている。
 そこへ初めての客としてセルバンテスが現われ、シェイクスピアとも初めて出会うことになる。
 瀬沼達也が声色を変えてシェイクスピアとセルバンテスの二役を演じる。
 喫茶店のマスターは一見客のセルバンテスを歓迎し、セルバンテスも同じ時に「この世」に来たことを知って、シェイクスピアと一緒に祝おうとして参加を促す。
 シェイクスピアとセルバンテスは最初はにこやかに話をしているが、シェイクスピアがイギリス生まれだと知ると、セルバンテスは400年前のイギリスがスペインにとっての敵国であったことから途端に不機嫌になってしまう。
 そこへセルバンテスの『ドン・キホーテ』のサンチョ・パンさの大ファンであるフェリックが現われ、二人は『ドン・キホーテ』の中でも最も有名な箇所の一つ、キホーテが風車を巨人と見間違えて突進する場面を二人で朗読し、意気投合する。
 劇の主筋として、セルバンテスを今夜の祝賀パーティに参加させることに喫茶店のマスターが常連客に協力を呼びかけ、その過程でシェイクスピアとセルバンテスの作品が朗読されていくとい趣向になっている。
 劇の中心部は3幕で、そこではシェイクスピア劇の代表作が次々と「天の国」の常連客である、アン、ルーシー、フェリック、それにマスターも加えてシェイクスピアの作品のハイライト部が劇中劇的に挿入されて朗読されていく。
 『から騒ぎ』ではアンを演じる飯田綾乃がベアトリス、シェイクスピアがベネディック、『ヘンリー四世』では増留俊樹が演じるフェリックがフォルスタッフでシェイクスピアがハル王子、『十二夜』ではアンがヴァイオラ、ルーシーを演じる金森江里子がオリビア、シェイクスピアが船長とセバスチャン、『ペリクリーズ』ではルーシーがマリーナ、シェイクスピアがペリクリーズ、『ハムレット』では最も有名な箇所'to be, or not to be'のハムレットの独白とそれに続く尼寺の場がルーシーとシェイクスピアによって英語による朗読劇が繰り広げられ、原語の台詞をたっぷりと魅了させてくれた。
 喫茶店のマスターを演じる佐々木隆行が劇の進行役として各幕のナレーション役をソフトな語り口で務める。
 舞台の上手には古楽器を演奏するグループが5名、下手にはアコーディオンデュオ・アウラの2名の女性演奏家がいて、劇中生演奏するという贅沢な公演であった。
 劇中で歌われる『十二夜』のフェステの唄をソプラノの声調で金森江里子が歌唱し、瀬沼達也がそれに唱和する、そして『ラ・マンチャ』の劇中歌「見果てぬ夢」を瀬沼達也が朗々と独唱し、たっぷりと聴き入らせてくれ、最後には出演者全員による「蛍の光」で観客の心を温かく包み、感動で魅了させ、主宰者として瀬沼達也が感謝の気持ちを謝して終わる。
 上演時間は休憩なしで2時間10分、主宰者の弁の通り朗読劇としてはかなり長く、演奏がそれほど多くないアコーディオンの女性二人は終演後は崩れるようにして体をほぐしていた。
 シェイクスピアとセルバンテスを出会わせるという着想そのものの面白さと、構成もしっかりしており、瀬沼達也の得意の言葉遊び、駄洒落も満喫させてくれ、秀作だと感じ入った。
 劇中に挿入するシェイクスピア劇の作品群を入れ替えることや、その数や台詞を減らして劇の時間を短縮するなど、いくつものバージョンが可能な朗読劇であり、今後もそのような形で色々なバージョンを上演していったら面白いと思うので是非続けていってほしいものである。

 

作・潤色・演出・主演/瀬沼達也
共催/シェイクスピアを愛する愉快な仲間の会(SAYNK)・横浜山手読書会
1月5日(日)14時開演、神奈川近代文学館・ホール

 

>> 目次へ