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2020年の「シェイクスピア劇回顧」と「私が選んだベスト5」

●2020年のシェイクスピア劇回顧

 例年であれば「私が選んだ20120年のベスト5」で締めくくるところだが、2020年は2月以降新型コロナウィルス感染の関係で演劇界は軒並み公演中止、自粛となり観劇本数は例年の3分の1以下となり、ベスト5を選ぼうにも選びようがないというのが正直なところである。
 シェイクスピアの時代にも疫病流行のため劇場閉鎖で上演が禁止されているが、演劇界の詳しい状況を知ることが出来ないが、1660年から69年までの膨大な日記を残した英国のピープスは、その日記の中に336本の観劇記録を残しているが、疫病が流行した65年の観劇数はわずか6回しかなく、その状況をうかがい知ることが出来る貴重な記録となっている。
 新型コロナウィルス感染による2020年の演劇界の影響は、大劇場関係では、彩の国さいたま芸術劇場での『ヘンリー八世』が途中から公演中止を余儀なくされたうえ公演予定に入っていた『ジョン王』も上演されないままであった。
 楽しみにしていたRSCの来日公演『じゃじゃ馬馴らし』や、毎年恒例のITCL来日公演も中止となった。
 しかしながら、9月以降は客席数を半減以下にしてわずかながらも上演が再開され始め、10月には新国立劇場で『リチャード二世』、東京芸術劇場で『真夏の夜の夢』などが上演された。
 12月には東京シェイクスピア・カンパニー(TSC)30周年記念として『冬物語』の公演が予定されていたが、コロナの関係で早くから中止が決定されていたが、11月に『冬物語』がドラマティック・リーディングとして公演されたのは救いでもあったし、来年の公演に先立って鑑賞できたことはある意味ではラッキーでもあった。
 毎年恒例として公演されている板橋演劇センターも当初の予定の公演が中止・延期となったものの、その代わりに特別企画として『サー・ジョン・フォルスタッフ』が上演され、延期となっていた『終わりよければすべてよし』も11月に無事上演された。
 毎年恒例の行事の一つであった明治大学シェイクスピア・プロジェクトの一般公演は中止されたものの『じゃじゃ馬馴らし』をユーチューブで配信された。しかしながら、関東学院大学のシェイクスピア英語劇が中止されたのは、学生さんたちも残念であったと思うが、個人的にも楽しみの一つが奪われた感じで寂しい思いをした。
 演劇界は上演数が少ないながらも2020年の紀伊國屋演劇賞では団体賞の該当はなかったものの、個人賞では、シェイクスピア劇関連ではリチャード二世を演じた岡本健一、野田版『真夏の夜の夢』でそぼろ(ヘレナ)を演じた鈴木杏の二人が演技賞を受賞。また鵜山仁が新国立劇場での『リチャード二世』の演出とシェイクスピア歴史劇完結で毎日芸術賞を受賞したのも朗報であった。
 悲しいニュースとしてはシェイクスピア・シアターで長年にわたってシェイクスピア劇を演出してきた出口典雄が誤嚥性肺炎で12月16日に80歳で亡くなられた。6月に予定されていた『リア王』もコロナのため公演が中止されていただけに心残りなことであったことと思う。
 このような状況下の中、観劇することが出来たシェイクスピア劇の「私が選んだ2020年のベスト5」の代わりに「特別賞」(観劇順)をあげると、

1. 劇団俳優座公演、近藤弘幸新訳による斎藤淳主演の『マクベスの悲劇』(3月)
2. 板橋演劇センター・特別企画、遠藤栄蔵構成・演出による『サー・ジョン・フォルスタッフ』(7月)
3. 新国立劇場公演、岡本健一主演の『リチャード二世』(10月)
4. 東京芸術劇場公演、野田秀樹作、シルヴィア・ヴルカレーテ演出 『真夏の夜の夢』(10月)
5. 劇東京シェイクスピア・カンパニー(TSC)、ドラマティック・リーディング『冬物語』(11月)
   

●コロナ禍にめげず、「がんばってますで賞」

1. REBORNの一連の公演(構成・演出:パク・バンイル)
『真冬の夜の夢』(1月)、『間違いの喜劇』(2月)、『ハムレット』(7月)、『ウィンザーの陽気な女房たち』(1010月)。5月の『マクベス』の公演は緊急事態宣言のため中止になったが、意欲的にシェイクスピア劇上演を続けて頑張った。
2. Tama Project公演、構成・演出:丹下一『Hamletsハムレッツ、Ver. 7.0』(3月)
東日本大震災の鎮魂を祈願して3・11の日に、コロナ禍の中で上演を継続した努力に敬意。
3. 新国立劇場演劇研究所・第14期生試演会、山崎清介演出の『尺には尺を』(10月)
4. シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会(SAYNK)、構成・演出:瀬沼達也、英語朗読劇『オセロー』(11月)
5月の公演が中止・延期となったものの、コロナ禍のなか、遠隔稽古で公演までこぎつけた意欲と努力に敬意。
5. Shakespeare Play House第8回公演、ホースボーン由美脚色・演出の『ヴェニスのしょう人』(11月)。コロナ感染に完全防備しての1回の観客数6人限定で上演。観客との一体感を感じさせる親しみの持てる舞台に。

 

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